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チ〇ポの1 ビッチの本能

    チ〇ポの1 ビッチの本能 「端末を操作しながら必ず注文の品を復唱すること。で、料理をテーブルに運ぶついでに空いた皿やグラスを下げて、ドリンク類を用意するのはホールスタッフの仕事。ざっとこんな流れ、飲食店関係のバイトは初めてって聞いたけど簡単だろ? じゃあ、例題的にマンゴーサワーの作り方を実演します。焼酎と割り材の割合は三対七と憶えておいてね」  羽月は大げさに咳払いをすると、トールグラスに何個か氷を入れて、そこに焼酎をそそいだ。そして食い入るように手元を見つめてくる青年に、悪戯っぽく笑いかけた。 「化学の実験じゃないんだから、ちょっとくらい分量を間違えても大丈夫だよ。あっ、パニクって証拠湮滅とかって、自分で飲んじゃ駄目だよ?」  相手はにこりともしないで、三対七、と脳みそに刻みつけるように復唱する。マドラーと氷が触れ合う音に我に返った様子で、深々と頭を下げた。 「親切な指導をたまわり、痛み入る」 〝痛み入る〟がツボにはまった。羽月はマドラーを握りしめて、噴き出しそうになるのをこらえた。次いでビールサーバーの使い方を説明するのにまぎらせて、拳ひとつぶん背の高い青年をじっくりと観察する。  基本のデータによると、彼は白石涼太郎(しらいしりょうたろう)くん、羽月と同い年の二十一歳。M大学理工学部の三年生で、学部は違うが同級生でもある。一重瞼の目許が涼しげな和風イケメンで、髪の色も眉の形もまったくいじっていない。清潔感にあふれているのは好ましいが、表情が硬いのが減点一。   涼太郎は、羽月のアルバイト先の居酒屋の求人広告を見てやってきて即採用となった。そして店長は丸投げというか、教育係には羽月が適任とおだてて、涼太郎を預けていったのだ。  損な役回り? ノー、ノー。羽月は快く引き受けた。いずれ、ご馳走になるはずのペニスと親しくなるチャンスを逃してはもったいない。 「爪はちゃんと切ってあるね、うん、合格」  などと、すかさず手にタッチ。ついでに股間に視線を流す。デニムで隠されていようともビッチ生活で培った鑑識眼はCTスキャン並みの精度を誇り、極上のイチモツを発掘可能、と答えをはじき出す。  羽月は密かにガッツポーズをすると、 「月中(つきなか)だけど金曜だし、団体の予約が入っているから忙しくなるよ。だけど、おれがフォローするんで、がんばろ」  強ばりがちな背中をぽんと叩いた。  ここ、居酒屋一丸は私鉄沿線の駅の近くに店舗を構える。一階はカウンターとテーブル席、二階は座敷という造りだ。

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