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第3話
涼太郎をロッカールームへ案内する途中、お礼、と姉御肌の板前さんからマカロンをもらった。
なんのことだろう? 羽月は新しい名札に〝白石〟と書きながら記憶をたぐった。
「あれのことかなあ? 真剣につき合ってくださいって告ってきたペニス……じゃなくて、メンヘラな男子に押しつけられた花束を横流しして、もらってもらった件」
不意に寒気がした。涼太郎が射殺すような目つきで睨んできた気がしたが、独り言を聞きとがめてのことだろうか。ともあれ制服を渡す。背中に〝一丸〟と染め抜かれたポロシャツと、ギャルソンエプロン風のデザインのものがそれで、涼太郎が着替えるところはさりげなく、しかしバッチリ盗み見る。
生唾をごくり。僧帽筋の発達ぐあいも麗しい背中だ。胸板も適度な厚みがあって、腹は六つに割れている。
乗せてよし、乗ってよしの細マッチョは、大好物だ。では、さっそく下ごしらえに取りかかり(正しくは誘惑開始だ)、ベッドという名の鍋で美味しく煮えてもらおう。
「何かスポーツやってる? けっこう鍛えてるっぽいよね」
羽月は、エプロンの腰紐をあえてきつめに締めなおした。抱き寄せたくなる、と評判の細腰 ぶりを強調するために。
「父が剣道の師範代で、自宅で──地方都市だが──道場を開いている。俺もいちおう有段者で、趣味は時代劇でおなじみの殺陣 だ」
武道系男子と聞けば「痛み入る」にも納得がいく。
「羨ましいなあ、おれなんか腹筋がんばっても筋肉がつかなくて。ほら、貧弱だろ?」
ポロシャツの袖をまくる。力こぶを作り、そこに涼太郎の手を強引に持っていくと、まばたきの回数を増やし気味に上目をつかった。
どきっとしたよな? どきっとしたに決まっている。得意技のひとつ、艶 目線で瞬殺した男は厖大 な数にのぼるのだ。きみとて例外ではないだろう?
ところが涼太郎ときたら、
「ビールと泡の比率について、いまいちど教えを乞いたい」
するりと身をかわすありさまで、少なからずプライドが傷ついた。
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