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第6話
「潜入成功、ターゲットに接触した」
陰謀の匂いに好奇心を刺激された。わざと乱暴にドアを開け閉めして、一旦、立ち去ったように見せかける。そのじつロッカーの陰に隠れて聞き耳を立てたとき、同世代の男とおぼしい通話の相手が、甲高い声でこんなふうに答えた。
「協力感謝。あのビッチを籠絡してぎゃふんと言わせる作戦の成否は、ひとえに涼ちゃんの働きにかかってる」
涼ちゃん、と羽月は呟いた。涼太郎を愛称で呼ぶほど彼と親しい人物が、どこかのビッチと訳ありのようだが、作戦とはきな臭い。それはともかく盗み聞きを働いたことがバレるとヤバい。ことさら大きな音を立てながらもう一度ドアを開け、
「おつー、立ち仕事はしんどいだろ、バテてない?」
たったいま来たばかりという体でエプロンを外し、それからスマートフォンの電源を入れる。すると、すさまじい数のメールを着信していた。同一人物からのものが九割を占め、その内容を要約するとざっとこんな感じだ。
──先日、ハメ逃げされたうえに純情を踏みにじられた。許すまじ、抹殺してやるううううううううううう……以下同文。
ベタな脅し文句、と羽月は瞳をくるりと回した。誤変換も多くて、恐れおののくより楽しませてもらった。
さて、羽月と同様に涼太郎も独り暮らしで、同じ町内のそれぞれ北と南の端に建つアパートを借りている。途中までは方向が一緒なので、つれ立って店を後にした。道々、誘惑するのにうってつけの展開だが、四ノ宮先輩、と呼ばれると調子が狂う。
「タメなんだし、『先輩』はいらないって」
「店では先輩にあたる。ケジメは大切だ」
と、大まじめに答える。新鮮な反応にビッチ心がくすぐられるのは、さておいて。
一丸が徒歩圏内の羽月に合わせて、涼太郎は自転車を押して歩き、ライトが行く手を淡く照らす。
羽月は、ななめ掛けにしたボディバッグをいじり回した。先ほど涼太郎が駐輪場でチェーンを外している隙に荷台に跨り、手首を揉みほぐしておいたのだが、
「ふたり乗りは道交法違反だ」
降りるよう急かされて、走行中にべったりと抱きつくという目論見が外れてしまったのだ。
だが一度や二度、すげなくされたくらいのことであきらめてはビッチがすたる。
大方、傘さし運転も片手ハンドルでスマートフォンを操作するのもNGだろうカタブツをあえがせるのが、セックスの醍醐味なのだ。
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