18 / 76

第18話

 羽月は、ちろりと舌を閃かせた。何しろ、こちらは酔いどれですからね、うっかり胸を撫でまわしても、それは酒の上の過ちということで悪しからず。  見た目に違わず程よく筋肉質で、ふんどし一丁のいなせな姿もきっとサマになる素敵なボディラインだ。なお、その場合はぜひともポロリのオプションつきで。  それはさておき規則正しい心音が耳朶を打つと、あらためて無念の涙が睫毛を濡らす。引く手あまたのビッチを抱いているんだ、少しくらいドキドキしろよ。  くやしまぎれ、且つ茶目っ気を起こして足の間に膝をこじ入れた。ギターを爪弾くようにスライドさせて、内腿に刺激を加えると、有無を言わさずベッドに放り込まれた。 「酔っぱらいは寝る……失礼」  と、涼太郎のスマートフォンが振動した。急ぎの返信を要するメールが届いたとみえて、すぐさまタップする手の角度の関係で、こんな文章が綴られたディスプレイが垣間見えた。 〝ターゲットS、自ら落とし穴に……〟。  それから数時間後、目がギンギンに冴えて眠れない羽月をよそに、涼太郎はこたつ布団にくるまって床に横たわり、すやすやと寝息を立てていた。夜這いをかけるにはお誂え向きのシチュエーションだが、寝顔が無防備にすぎて、結界が張られているようにかえって手を出しづらい。  リュックサックを叩いて、畜生、と呟く。コンドームおよびローションを使わずじまいに終わるとは、慙愧(ざんき)に堪えない。履いた結果、それの落とし主が判明したガラスの靴と同様に、ペニスの性能もハメてみなければわからない。だが涼太郎のそれは五つ星だと、いわばペニス・ソムリエの勘が告げる。  手が届くところに、ふるいつきたくなるペニスがあって、なのに高級宝飾店のショーウインドウに飾られているように、指を咥えて眺めているだけとは切ない話だ。  悶々と寝返りを打ち、まんじりともしないでいるうちに、スズメがちゅんちゅんと鳴きはじめた。かくして〝酔わせてホールイン♥作戦〟は失敗の憂き目を見た。  おまけに悪友の須田に、カクカクシカジカと愚痴ったばかりに焼き肉をたかられる羽目になって、泣きっ面に蜂とはこのことだ。  せめてもの戦利品にと、ちょろまかしてきた涼太郎の歯ブラシを夕日に翳す。  ネバー・ギブ・アップ!

ともだちにシェアしよう!