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第23話

 だが我慢するのは躰に毒だ。それでも週のなかばに一本、つまみ食いをするにとどめた。  それはさておき調理実習中に、ヤカンを空焚きして異臭騒ぎを起こし、クラスメイトを恐怖のどん底に突き落としたという前科がある身で、絶品の肉じゃがなる難易度の高いものをマスターできるのだろうか。  ペニスを射んと欲すれば、まず胃袋を射よ。現代社会には料理サイトという頼もしい味方がある、と自分を励ます。  早速スマートフォンと首っ引きでジャガイモの皮をむき(絆創膏を三箱分の切り傷をこしらえた)、肉を炒め(たまに自分の指も焦がし)、ガス台を鍋の墓場に変えながら奮闘する。   三べん回ってワンをやる、という条件で須田に毒味役を引き受けてもらった。これを(もっ)てしても〝餌づけ作戦〟に賭ける意気込みは並々ならぬものがあった。 「四ノ宮、おまえの料理は消化器破壊凶器だ……うっ、正露丸をくれっ!」 「今度は会心の出来だ。ジャガイモがちゃんと煮えてる」 「馬鹿野郎、煮えてるのが普通なんだ!」  昼夜兼行で、そんな不毛なやりとりを繰り返すこと数日。スポ根ものをしのぐ特訓を重ねたすえに、ついに黄金色(こがねいろ)に光り輝く肉じゃがが完成した。 「味がしみしみ、ジャガイモはほくほく。宇宙レベルの料理音痴が、三葉虫がカブトムシに進化するに等しい進歩を遂げた……」  須田が皿を抱えて男泣きに泣いた。頬がげっそりと()け、毒味役の過酷さを物語っていた。 「チ〇ポ目当てにしたって、ビッチの執念はすげぇな。まっ、健闘を祈る」  羽月はもらい泣きに瞳を潤ませて、須田と共犯者の笑みを交わした。友よ、消化器に多大な犠牲を強いてくれた、友よ。涼太郎が飛んで火にいる夏の虫となったあかつきには赤玉が出るまで精を搾りとって、この恩に必ずや報いてみせる。  さて、決戦の日は奇しくもハロウィン。 「お菓子(ペニス)をくれなきゃ悪戯しちゃうよ、くれたらもっと悪戯しちゃうよぉ」  羽月はペニスに見立てたアタッチメントをいやらしく撫でまわしながら家中に掃除機をかけ、体内はいっそう念入りに磨きあげた。サブリミナル効果を狙って、淫靡な柄が隠し絵風にプリントされたものにカーテンをかけ替えた。  枕の下をはじめ、あちらこちらにコンドームを忍ばせる。はだかエプロン対応の、ふりふりのエプロンも用意した。あえてタートルネックのカットソーを身にまとい、ストイックさを演出する一方で、美脚を強調するストレッチジーンズを穿く。

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