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第27話

 涼太郎は、くっきりした眉を寄せた。蝶結びにしてあしらった三つ葉を箸でつまみあげ、 「泥縄式と謙遜するが、これなど芸が細かい。俺に供するためにがんばってくれたと仮定して、なぜ、そんな面倒くさいことを」  羽月は冷蔵庫のドアを開けて、その陰に隠れた。きみのペニスを貪り食らう、という遠大な計画の一部だったなんて、口が裂けても言えない。 「理由はどうあれ先輩は有言実行の努力家だと思う。実際、この肉じゃがは天下一品だ」  涼太郎の頭上に天使の輪が見えた。確かに事、ペニスに関しては努力を惜しまないが買いかぶりだ。それはそれとして、やけにドキドキする。もしかするとフェロモンに自家中毒を起こして、だから涼太郎が眩しく思えるのだろうか。 「厚かましい頼みだが、また作ってほしい」  はち切れそうだ、というふうに腹をさする仕種で締めくくると、背もたれにゆったりと上体をあずけた。 「条件次第、かな?」  頃やよし、とビッチな人格にスイッチした。羽月は優美な足どりでソファに戻り、涼太郎の右手側の肘かけに尻を引っかけた。思い描いていたものとは方向性がいささか異なるが、流れとしては悪くない。なごやかな雰囲気が漂うこの機を逃さずに、グイグイいこう。そう、勃たせてしまえばこっちのものだ。  みみっちい話だが〝プロジェクト肉じゃが〟には巨額の費用を投じた。先行投資した分をきっちり回収するぞ、さあ! 「お弁当がつきっぱなし」  ことさら事務的な口調で囁くと、ジャガイモの欠けらをつまみ取るふうを装って頬を撫であげた。くすぐったげに顔を背けられるのは、予測ずみ。この手が駄目なら、あの手がある。  バランスを崩して肘かけからずり落ちた体で、涼太郎の膝の上にダイブした。そして当惑顔をじっと見つめて、嫣然(えんぜん)と微笑んだ。 「おれ、料理は苦手だけど得意な分野があるんだ。ただ、共同作業が大事なんだよね」  即ちペニスとアナルの華麗なる饗宴(きょうえん)だが、言わぬが花だ。 「次世代ロボットの研究開発に取り組むうちのゼミで、チームワークが(たっと)ばれるのと同じ理屈か。ところで非礼を顧みずに言うが、先輩が邪魔でビールが飲みづらい」  羽月はテーブルに伸びる手をやんわりと押さえながら、努めて表情を引きしめた。 「たとえ話ね。合コン中にメチャクチャ可愛い女子が、白石くん推しとじゃれついてきました。さあ、どうする」 「即座に席を移る。まあ、もともと合コンになど興味がないし参加する予定もないが」    ちっ、ちっ、ちっ、とメトロノームのように人差し指を振り動かした。 「就職して直属の上司に、員数合わせに合コンに参加しろと言われたのに断ってみな。気まずくなるかもよ」  一理ある、と思ったようで沈黙が返った。 「おれが女子役を()ったげるから。肉食系にロックオンされたって設定で、角が立たない断り方を練習しとこう」  小悪魔の尻尾が蠢いた。座り心地抜群の膝から下りしな、腰骨で鳩尾をこすりあげた。  細かな振動が下腹部に伝わり、海綿体に血液が流れ込み、九割方の男は鼻息を荒くする。ビッチ道を究めるなかで培ったテクニックのひとつを用いたわけで、要するにほんの小手調べだ。

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