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第30話

 テーブルの裏に貼りつけておいたコンドームの封を切り、風船のように膨らませた。一流の調教師でも、狼に先祖返りをしたような犬を飼い馴らすのは骨が折れる。涼太郎が進んでパンツを脱ぐように誘導するのは、さらに困難を極める。  ただでさえ膠着状態に陥っているのに、ペニスにありつくためには誤解を解くところからやり直さなければならないとは、いちだんとハードルがあがった感じだ。過去にコンドームその他の中で犬死にした精子たちの祟りだろうか。  返す返すも残念なのは。ペニスをいただくのはひとまず二の次にして、涼太郎ともう少しの間、まったりしていたかった。 「白石くんは、あれな。和風の男前で肚が据わってるぽいくせに天然入ってて、いいキャラじゃん。あれも鬼畜ビッチ四ノ宮にハメ逃げされるとかって、哀れですねぇ」  須田はにやつきながら冷蔵庫を漁り、シャンパンのボトルを引っぱり出した。それは見事に合体しおおせたあかつきの祝杯用に、と冷やしてあったものだ。 「あのさ、せっかくの親密ムードをぶち壊してくれたわけだから、慰謝料を払ってみよっか」  隙をついて足払いをかけ、仰向けにひっくり返った須田を跨いで立つ。そして股間から数センチの高さで片足を浮かせた。即ち、いつでもタマをぐしゃり、だ。 「話をややこしくしてくれたお礼に去勢してやる。片タマずついくか、両タマまとめていくか、好きなほうを選べ」 「ハロウィンは悪戯する日、万国共通認識」  と、しれっと眼鏡をかけなおし、足の裏をくすぐってきた。たまらず羽月がしゃがむと、デコピンを食らった。 「歩く性魔人の二大巨頭つか、いちおう親友枠のおまえが珍しく苦戦してるから、当て馬のふりをしてあげようって麗しい友情でしょうが。四ノ宮羽月は男もイケると知ったら対抗意識が芽生えて、そのぶんガードが甘くなるかもって俺の経験則が語るわけ。てか、さっそく俺を恋敵認定したっぽかったぞ」 「白石くんがサカるの前提で、ちゃんと中をほぐしておいたのを無駄にしてくれて、よけいなお世話のありがた迷惑だ!」  げらげらと嗤われた。羽月はソファに腹這いになり、カバーを皺くちゃにしながら足をばたつかせた。予定では、ここでペニスの膨張率等の簡単な検査を行ったのちにロフトに場所を移して、本格的に性能を確かめるはずだった。  須田の顔が、カボチャをくり貫いたジャック・オー・ランタンそのものに見えて、むしり取った眼鏡をテレビの後ろに隠してあげると、シャンパンをラッパ飲みした。  羽月は自分の頭をぽかぽかと殴った。須田に八つ当たりをする羽目になるくらいなら、肉じゃがに媚薬を盛って、さっさと勃たせて交合に及ぶべきだった。  遠吠えをしたい気分だ。あお~ん、ペニスーッ!

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