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チ〇ポの4 ビッチの困惑

    チ〇ポの4 ビッチの困惑  色づきはじめた銀杏の葉っぱが、そよ吹く風と戯れる。M大学文系校舎群のメインストリートの両脇には模擬店がずらりと並び、来場者でごった返す。  焼きそば、ケバブ、キーマカレーにパンケーキ等々……。それぞれのブースで色とりどりの(のぼり)がはためき、威勢のよい声が響き、醤油やソースが焦げる香ばしい香りが漂う。  学園祭の最終日だ。広場の特設ステージでは人気アーティストやお笑い芸人によるミニライブが行われ、咲き乱れるようにケミカルライトやタオルが打ち振られる。  ミス・ミスターキャンパスのコンテストは、とりわけ人気がある()し物だ。例年同様おおいに盛りあがり、出場者はおびただしい数のスマートフォンがステージに向けられるなかで特技を披露して、栄冠を競う。    羽月は某サークルの部長に拝み倒されて、そのサークルが手がけるヨーヨー釣り屋のサクラを務めていた。羽月自身はイベントサークルのひとつに所属しているが、夏前に内部抗争めいたものが勃発して(部長と副部長が羽月の(ちょう)を争った結果だ)、活動停止状態なのだ。  代わりに閑古鳥が鳴いている模擬店から、ちょいちょい助っ人を頼まれる。羽月がひとたび愛嬌を振りまくと、ペニスが殺到して売り上げに貢献してくれる。フェロモンだだ洩れ症という能力を買われて、客寄せパンダの役を務めているのだ。  報酬は、もちろんペニスだ。気に入ったペニスを適宜チョイスするにあたって協力は惜しまない、との言質(げんち)をとってある。つまりウィンウィン、この世は持ちつ持たれつだ。  今もペニス──下は小学生からシルバー世代までのメンズが、ヨーヨーを浮かべたビニールプールを十重二十重に取り巻く。ど・れ・に・し・よ・う・か・な、という光景だが、まったく食指が動かない。  たとえば、もげやすい針がついている釣り竿──といっても割り箸だが──を大人買いした青年は、巨根の(ぬし)とビッチセンサーが感知する。ところが、しゃぶる気にも乗っかる気にもならないありさまだ。  ビッチの看板を掲げはじめて以来、ペニスは心と躰の栄養だった。スランプに陥ったのだろうかと、ため息交じりに釣り竿をくるりと回すと、整理券を配布する騒ぎになる。向こう数年分の部費を稼ぎ出す盛況ぶりに、部長はほくほく顔だ。 「四ノ宮くん様様だ。あざーす、です」  完売御礼に、とコンドームを一グロスをもらった。寸志とある箱を小脇に抱えて、ぶらぶらと歩きだす。カップルの姿がやけに目について、彼らを追い越すときは必ずふたりの間をすり抜けた。

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