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第35話

〝占いの(やかた)〟と銘打った、そこに。女子やカップルが順番待ちの列を作り、そちらへ思案顔を向ける涼太郎を、羽月は物陰からじっと見つめた。胴着姿も相まってミスマッチ感がすごい、と思う。だいたい涼太郎と占いは、ベクトルが反対を向いているように思えるのだが。  あにはからんや、涼太郎は列に並ぶ。羽月はこっそり、且つ急いでテントの裏手に回った。この演し物を手がけるサークルの部長には貸しがある。突発性インポテンツを患って、と相談を持ちかけてきたさいに、ちちんぷいぷいと治してあげたのだ。  その件を取引材料にプラス、フェロモンを少々加えて交渉した結果、話はまとまった。涼太郎の順番が回ってきたさいには助手という名目で同席させてもらう。黒いレースのヴェールを頭からすっぽりかぶり、待ちわびること十数分、 「よろず占ってもらえると伺った。失礼する」    涼しい声が鼓膜を震わせた。心の準備ができているようで、できていない。羽月はヴェールをかき合わせて、うずくまった。テントの裾をめくり、這い進むようにしてくぐる。たちまち、ふにゃふにゃと力が抜けて、うつ伏せにひしゃげた。  涼太郎は袴さばきも麗しく、入口の布をかき分けたところだ。凛とした面立ちに緊張感がみなぎり、なおさら若武者めく。  カッケー、と思わず口笛を吹いてしまうのもむべなるかな。部長ことエセ占い師に背中をつつかれて我に返ると、しとやかに彼の後ろにひかえた。  涼太郎は一礼したうえで丸椅子に腰かけた。ビロードのクロスで覆われた小卓を挟んでエセ占い師と向かい合う。掌をしきりに袴にこすりつけるのは、手汗がすごいせいなのかもしれない。実際、いつになく口ごもりがちで何度も唇を舐めて湿らせたすえに、ようやく本題に入った。 「ある人……仮にSと呼ぼう。Sは尻軽な極悪人だと聞かされていたのだが、素顔は快活で愛らしくギャップに惹かれるものがある」  もういちど唇を舐めると、意を決したふうに言葉を継ぐ。 「実は、俺はSに恨みを持つ近親者が放った刺客だ。復讐の手助けそっちのけでSに深入りしては本末転倒だが、Sとの相性を占っていただきたい」 「つまり、ご希望は恋占い──と」  エセ占い師が念を押すと、掌を袴にこすりつけるスピードが速まり、摩擦熱で布が焦げるようだ。  占いの館を標榜していても所詮、学園祭のお遊びだ。当たる、当たらないは二の次で、占ってもらう側はポジティブな答えに満足して帰る。  しかし涼太郎の場合は、あくまで本気モードだ。先ほど五人を相手に鬼神のように斬り結んでみせたときとはうってかわって、不安げな色が瞳に浮かぶ。タロットカードが並べられ、それぞれのカードが意味するものに解説が加えられるたびに、いちいち真剣な表情でうなずく。

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