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チ〇ポの5

    チ〇ポの5  学部が違うと、キャンパス内でばったり会うことなど滅多にない。ただし向こうが捜しにくれば話は別だ。  学園祭の翌日からこっち、羽月は努々(ゆめゆめ)涼太郎に見つかることがないように、と登校するさいには伊達眼鏡とマスクと帽子を着用していた。 「おまえ、振り込め詐欺の出し子感満点な。試しにATMに行ってみ?」  須田がノートの隅に、手錠をはめられた羽月の似顔絵を描いてにやつく。羽月は机の陰で足を踏んづけて返した。  私語にうるさい教授の講義中とあって、静かに、だがでかでかと、ノートに女性器を意味するマークを落書きされた。羽月は須田のノートに〝就活全敗〟と書いて返し、階段教室の最後列で低レベルの争いをつづけた。  板書を眺めやると、つづけざまにため息がこぼれる。死刑廃止論がどうのこうのより、スランプを脱出する方法が知りたい。百年にひとりのビッチ、と崇めたてまつられたのは今は昔の物語だ。  かれこれ一週間あまり、しごいても銜えても()れてもいない。椿事という段階を通り越して、もはや天変地異の前触れだ。  柄にもなく清い生活を送っているのは、涼太郎が心の中に棲みつき、夜な夜な夢に登場してくれるせいだ。謝りそびれたっきり、という罪悪感が脳みそのどこかの回路に影響をおよぼすように。  バイト中に涼太郎と目が合うと覿面に動悸がして、それでも自然体で接するように努めているせいなのかオーバーフロー気味で、ゆうべは知恵熱が出た。 「ため息ウザい。ため息一回につき、幸せがひとつ逃げてくってよ」  小声で囁きかけてきながら〝幸〟という字に羽が生えて飛んでいく絵を描いてよこす。羽月は小指で耳に栓をして、ぷいと横を向いた。  木枯らしが吹きすさぶなか、とぼとぼと家路をたどる。底冷えがする日は一にペニス、二にペニス、三四がなくて五にペニスで温まるに限る。  精液欠乏症に陥ったあげく〝穴〟がふさがってしまっては、死活問題だ。そう、エロ三昧といき復活を遂げよう。  キープしてあるペニス要員のひとり……面倒くさい、全員まとめて呼び出して乱交パーティーを開催してやる。早速スマートフォンのロックを解除すると、五十を超えるボイスメッセージが残されていて、萎えた。  発信元は非通知とあるが、どうせ、いつものストーカー予備軍だろう。念のために一件目を再生してみると案の定で、ただし羽月を怖がらせるつもりだろう、おどろおどろしい効果音があまりにもベタで笑えた。  マメなやつ、と皮肉っぽく呟き、残りのメッセージはひとまとめに削除した。イタズラ電話をかけるのが関の山のストーカー予備軍など、鬱陶しいだけで怖くもなんともない。  とはいうものの、アパートの外階段をのぼりつめたせつな、さすがにぎょっとして立ちすくんだ。自宅の前に誰かがいる。

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