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第2話

 インターホンを鳴らすと、少しして、涼真が出てきた。  と、こういう訳だから。  涼真が待っていたのは翼であって、オレの事じゃない、んだけど。  顔と体だけは翼なので、涼真は、オレを迎え入れる。 「入れよ」  涼真が言う。オレは「お邪魔します」と中に入る。すると涼真がクスっと笑った。 「何それ。珍しい事言って。翔の真似?」 「――――……」  ……翼、お邪魔しますとか、言わないのか。一言目から怪しまれてる。  翔の真似?って。 結構的を得てる。真似じゃなくて、中にオレが居るからな。……なんか、さすがだな、涼真。……鋭い。 「今日翔は? 家に居るのか?」 「居るよ」 「今日はデートじゃねえの?」 「そう、みたいだよ」  ていうかオレ、こないだまた、別れちゃったけど……。  ――――……オレの話なんか。翼と、するんだ。  少し、複雑な気分。 「翼、水飲む?」 「ううん。いらない」  ぁ。翼なら、「いらねー」かな。  思った瞬間。 「……何、翼。さっきから何で翔の真似してんの?」  じ、と見つめられる。  なんか。久しぶりに会ったけど。  すごい背が伸びて。体も、筋肉ついてるし。  イイ男に拍車がかかってる気がする。 「……まーいいや。部屋いこ」  涼真が言って、先に階段を上り始める。 「おばさんたちは?」 「……親父遅いし、母さんも夜勤。だから来てんだろ。お前今日、変だな」  ……やめようもう、質問するのも。  言葉遣いは「じゃねー」とか「おう」とか。少し柄悪くを心がけよう。  部屋に入りかけて、思わず足を止める。  中学2年の夏。ここに、最後に泊った日を境に。  涼真は、オレから離れていった。  遊びに誘ってこないし、オレから誘っても、断られて。  あの日以来の、涼真の部屋。  ……懐かしいな。 「どうした?」  振り返る涼真。窓をしめて、エアコンをつけた。 「窓あけといていいのに。風涼しいし」  そう言ったら、涼真は嫌そうにオレを見た。 「……お前の声、翔に聞こえたらどーすんだよ」 「……別にオ……翔に聞こえたっていいんじゃ……ねえの?」  ねえの、は、気を使って、言ってみた。 「は?……お前、ほんと、どーした? 良い訳ねえだろ」  なんかすごい圧を感じるので、オレは、涼真から少し離れて。  スマホの入った鞄を、涼真の机の上に置いた。  ……きっと、電話の向こうで翼、呆れてるんだろうな。早く帰って来いって、思ってるかもな……。  っていうか、マジで帰った方が良い気がする。バレそう。  翼がばらすならいいけど。  オレが、実は翔ですとかばらしたら…… 避けられて離れてったままのオレが、翼の顔でここに居るとかばらしたら、きっと、涼真、すげえ混乱するだろうし。  ……ばれない内に、帰ろう。 「涼真、オレ、今日」  言った瞬間、部屋の電気がぱちん、と消えた。  外の明かりが窓から入ってるのでそこまで真っ暗ではないが。  え?  事態が分からなくて、固まってるオレの前で、涼真が着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。  男っぽい、体。  ――――……つか、何で、脱いでんの。  強張ってるオレに、近づいてきて。涼真はオレを、ベッドに倒した。 「翼、なんか、趣味悪いな」 「……っ?」 「翔の真似とか、すんな」  ずき。  なんか胸が痛い。  引き続き硬直してるオレに触れて。  ……いや。翼の体に、触れて。 涼真は、服を脱がせてきた。  固まりすぎてて。抵抗も出来ないまま。下着だけになって。  ……翼が言ってた、全部納得済みって。  大好きだから、関係壊すなって。  ……全部、体は翼のだから、って…… こ、うい、う、意味?  え、オレに、これを、耐えろって、言ったの??  うそ、だろっ。  涼真の唇が、首筋に這う。  びくん!と体が跳ねた。 「……そんなに首、弱かった?」  ふ、と笑って、涼真が、何度も首筋にキスする。  そうしながら、体の色んな所に、触れて。刺激して。  強張って戸惑ったまま、体の熱がどんどん上がっていく。 「ん、ふっ……」  なん、だ、これ。  涼真と翼……こんな事、して、たの?  オレと離れたのは……こういう関係、ばらしたく、なくて? 「……っあ……!」  涼真の手が、オレに……じゃなくて。翼のそれに、絡んで。激しく刺激する。声が上がって、こらえようと唇を噛みしめる。 「……んんぅ……ふっ」 「……いつもみたいに、言わねえの? エロい言葉」  ……っ言えるか……! 「……翔っぽくしてンの?」  そんな風に言う涼真の声は、少し、怒ってる気がする。  急に激しくされて、あっという間に達してしまった。 「早いな、今日」 「――――……っ」  ほんとは、蹴り飛ばして、逃げたい。  でも。  翼が、大事にしてるから、絶対壊さないでと言ってた、のと。  こんな風に、オレに……翼だけど、でも、今は、オレに。  触れて、見つめてくる涼真に……。  …………抵抗、でき、なくて。  翼の、かわりでも。  ……一度だけ、でも。  ……抑えていた気持ちが、突然膨れ上がって。  ぬるぬるしたものに濡れた涼真の指が、後ろを慣らし始める。  痛くない。気持ちいい。  それ位――――……2人は、そういう事、してたんだ。 「……っ」  涙が、滲んでくる。 「――――……入れるぞ?」  涼真の声がして。  脚を上げられて。  中に入ってからすら、痛くない。  ぞくぞくした快感。  ――――……どんだけ……してたんだよ、馬鹿。 「……っぁ……! んっ……っふっ……」 「………っ」 「りょ、ま……っ――――……りょう、ま……!」  ぎゅ、と抱き付く。  涼真の体が、熱くなった気がした。 「――――……翔……」  え?  「……翔」  え。 ちょっと、待って。  ――――…… バレた? え? 何で? 「りょう、ま……っっんっ……っ」  瞬間、激しく、唇が塞がれた。   舌が絡めとられて、喘ぎが漏れる。 「ふ……っん、ん……」  初めてなのに、こんなに、気持ちいいのは……涼真と翼が、こういう事、何度もしてて……翼の体が、慣れてるせいで…………。 「翔……」  分かんない。  さっきまで、翼って言ってたのに。  間違えて呼んでる?  ……でも、もう長い事、オレの名を呼んでない涼真が、間違えるはず、無い。何で、翔って、言うんだ……? 「……りょうま――――……あ……!」  激しい動きと、溶けそうな熱いキスに翻弄されて、達したのが分かって。  はあ、と息を整えようとしてるのに、再び覆いかぶさられて。 「……ごめん、続ける」 「……っ………あっ……んんっ」  さっきよりも深く、突き上げられる。  激しすぎて。 懸命に耐えるけれど、無理で。噛みしめる唇の間から、声が上がる。 「……翔…………」  囁かれて、キス、される。 「りょうま……ぁ……」  名を呼ぶと。  切なくて、涙が零れる。  激しい、嵐みたいな。  翻弄されまくる時間が――――……長く、続いた。

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