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その青色に触れたい(3/4)

「……ルス?」 レイがそろりと目を開く。 けれど、俺が唇を寄せれば、そこはまた閉じられてしまった。 瞼の境に舌先を差し込もうとするも、唇よりも薄いそこは、けれど唇よりも強固に青い宝石を覆い隠していた。 「ル、ルス!?」 レイの声に焦りと困惑が滲む。 「何して……っ」 問おうとするその唇へ、唇を押し付ける。 強く吸い上げれば、強ばったレイの身体から徐々に力が抜ける。 そっと離して、うっとりと俺を見つめる青い瞳へもう一度唇を寄せる。 しかし、それに触れる前に、またも瞼を閉じられてしまった。 「目を開けてくれ」 俺の言葉は、自分が思うよりずっと真剣な音で響いた。 「な、何でだよ……」 「お前の瞳に触れたい」 真っ直ぐ見つめて告げれば、レイが動揺を滲ませる。 「うぇ……。……うう、どうしても、か……?」 レイは、驚きと困惑の入り混じった声で尋ねる。 俺はちょっとだけ迷ってから、答えた。 「…………どうしてもという事はない。お前が嫌なら、やめておこう」 身体を離せば、レイはその目を開いて一瞬傷付いたような顔をして、それから慌てて言い返す。 「いっ……いや、だって、目なんか触られたらぜってーいてーだろ!?」 「そうかも知れんな」 「いや、そーだろ!?」 レイは、俺の期待に添えなかったことがよっぽど心苦しかったのか、俺に必死で同意を求めてきた。 俺は、残念な思いを呑み込みながら答える。 「お前なら、俺が触れれば感じそうな気がしてしまってな」 「なんでだよ! 流石に無理だろ!!」 まだ赤みの残る頬で、レイが叫ぶ。 焦った顔も、また可愛い。 「試してみるか?」 「……え。……いや、それは……」 「嫌か。それなら仕方ないな」 サアッと青くなった男に、俺は苦笑を浮かべて視線を逸らした。 これ以上、俺を必死で見つめるその青い瞳を見ていたら、力尽くでもその瞳を手に入れたくなってしまいそうだった。 隣に並んで町を歩けば、こいつが道行く人々の目を奪う存在だという事は嫌でも分かる。 鮮やかな金髪に、真っ青に煌めく瞳。 皆の視線を釘付けるその瞳を、俺だけに許してほしいと、俺だけのものにしたいと欲してしまう。 この欲は、あまり良いものではないだろう。 レイが拒否するのなら、きっと、それが正しい。 夜風にでも当たって頭を冷やそうと、俺は立ち上がる。 と、不意に腕を掴まれた。 驚いて振り返ると、レイはどこか泣きそうな顔をして俺を見上げていた。 「ルス……」 「大丈夫だ。ちょっと頭を冷やしてくる。お前は何も悪くないし、気に病む必要もない」 そう言って、なるべく優しく髪を撫でる。 後頭部の傷に触れないように、いつものように側頭部を撫で下ろすと、レイの手が俺の手を包んだ。 そのまますりすりと頬を俺の手のひらに寄せられる。 「……あまり甘えられると、押し倒してしまうぞ?」 「ん」 手を掴まれたまま、コクリと頷かれて、俺は迷う。 明日は二人揃っての休みだし、元からそのつもりではあった。 けれど、今。心が乱れたままに抱いてしまえば、また前のようにこいつを抱き潰さないとも限らない。 俺は視線を窓に投げると、大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐く。 心を落ち着かせるように。 自分の頭をなるべく冷静に保つように。 俺の反応が無い事を焦ってか、レイが思い詰めたような顔で口を開いた。 「いっ、……一回だけなら、試しても、いい……ぞ……」 思わず、ぽかんとした顔でレイを見る。 俺をおずおずと見上げてくる青い瞳と、ぱち、と目が合うと、レイは恥ずかしそうに頬を染めて俺の手に隠れるように俯いた。 おいおい。どうしてそう、お前はやることなすこと可愛いんだ。 「……本当に、いいんだな?」 俺はもう一度ベッドに腰を下ろしながら、俺の手のひらに顔を隠そうとしている男の耳元へ顔を寄せると、囁くように確認する。 「い、一回だけだからなっ」 顔を隠したまま、レイが答える。 一回だろうが二回だろうが、同じようなものだろう。 こいつは、俺になら痛い目に遭わされてもいいと言ったのだと、分かっているのだろうか。 思わず口元に滲んでしまう笑みを隠すようにして、俺はレイの耳元で囁いた。 「……痛いかも知れないぞ?」 びくり、と肩が揺れる。 けれど、俺を拒む気はないらしい。 そうか。 それなら、有り難くいただくとしよう。 お前の、初めてを……。 胸の内に膨れ上がる征服欲に気付かないふりをしながら、なるべく優しく、レイの頬を両手で包むようにして引き寄せる。 「えと、……目、瞑っちまったら、ごめんな?」 レイはどこか緊張した面持ちで俺を見つめてから、視線の置き場を探すように、そっと目を伏せる。 ごくり。とレイの白い喉が小さく音を鳴らす様子に、その緊張が痛いほど伝わった。 「そんなに力を入れるな。大丈夫だ。痛ければすぐにやめる」 俺は宥めるように言って指先で白い頬を撫でながらも、それを要求している自身を自嘲する。 自嘲ではあったが、俺が笑ったことにレイは少し安心したのか、嬉しげに目を細めて俺を見上げた。 ああ、やはりお前の瞳は美しいな。 深みのある青。それなのに奥まで透き通って、チラチラと揺れる部屋の灯りが、青い海の中で踊っているようだ。 未知への不安と恐怖を、俺への信頼で抑えて、俺のために笑ってくれる。 その健気さが、俺にはたまらなかった。 左眼には長めの前髪がサラサラとかかっている。そうでない右眼に狙いを定めて、俺は左手の親指と人差し指で、レイの瞼が閉じないよう押さえた。 それだけの刺激で、反射的に瞬きしそうになるらしいその瞳を、逃さないように拘束する。 ゆっくり顔を近付ければ、レイの表情に恐怖が滲む。 目を閉じることも逸らす事もできない男が、どうしようもなく息を止める。 あまり長く息を止めているようなら、一度放してやろう。頭の隅でそう思いながら、俺は舌を伸ばした。

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