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その青色に触れたい(4/4)

***レインズ視点*** 眼前に迫る舌。目を逸らすことのできない事実が、何だか異様で恐ろしい。 瞼を閉じようにも、まぶたは上下ともに太くて温かな指で、ガッチリ押さえられていた。 ルスの黒い瞳は完全に据わっている。 俺の右眼をじっと見据えたまま、どこか影のある表情で、満足そうに口端に笑みを浮かべていた。 ルスが俺を支配しようとしている。その事実が、身体の奥に熱を生む。 視界を奪われ侵される恐怖に息が詰まる。 それでも、自分が心のどこかでそれを望んでいるのだと気付いたのは、温かなルスの舌が触れた時だった。 「……っ」 思わずびくりと肩が揺れる。 けれど、ルスの手に固定された顔と瞼は微動だにしない。 最初に触れられたのは白眼の部分だった。若干の異物感はあれど、痛いと言うほどじゃない。むしろ、そっと、そうっと撫でられれば、くすぐったい気さえする。 視界を埋め尽くすのは、柔らかく蠢く男の舌だ。 「……ぅ……、……ぁ」 知らず、僅かに開いた唇から息が漏れれば、それは自分が思うよりもずっと甘い響きだった。 ルスは一度舌を引っ込めると、含み笑うように言う。 「痛くはなさそうだな」 それが何だか酷く恥ずかしくて、俺は顔が赤くなるのを止められなかった。 もう一度伸ばされた舌を、今度は何とか瞼を閉じようとせずに受け入れる事が出来た。 ルスは気付いただろうか。 褒めて欲しいと言う気はないが、それでも、それに似た気持ちが胸に湧く。 ひた。と眼球に添えられた舌先に僅かに力が入り、ルスの舌先が眼球と瞼の間に入り込んだ。 「ゃ……、ぁ……」 ぬるりとしつつも柔らかで弾力のある感触と、自分ですら知らない場所に入り込まれる恐怖に、背筋を悪寒と快感の混ざり合ったようなものが駆け上がる。 「ぅあ……っ、ぁ……ぁぁぁ……」 じわりと生理的な涙が滲んで、ルスが涙の向こうにぼんやりと滲む。 浮かんだ涙をぺろりと舐め取られて、初めての感触に思わず声が漏れる。 「ひ、ぁ」 あ、今……俺の眼、舐められ、た……? 思ったほどの激痛ではなかった。けれど確かな違和感。 一瞬だけ視界が開けて、そこを今度は温かなもので直接塞がれる。 自分の瞼でも、その外で目を塞がれるでもなく、直接眼球を塞がれて、五感のうちの視覚を、今確実にルスに奪われているのだと知る。 ルスは俺の目を傷付けないように、そっと優しく、けれどその全てを覆うように舌をゆっくりと這わせる。 「は……、あ……ぁ、ぁあぁ……、ぅぅ……」 ぬるりと柔らかな粘膜同士の擦れる感覚に、全身が粟立つ。 繰り返しゾクゾクと背を駆けるそれは、もうそのほどんどが快感だった。 口付けと違うのは、何も返す事が出来ない事だろうか。 ただされるがまま、どうしようもないままに、俺は半開きの口端から次々に声の混じる息を漏らした。 あ……、今、俺……、ルスに、全部……。 頭の芯がじんと痺れて、現実感が失われてゆく。 ルスに求められて、自由も視界も奪われて、それがどうしようもなく嬉しい。 昂る感情に、熱い涙が次々溢れる。 「ル、ス……、ぁ……ぁぁあ……」 ぴちゃ、と小さな水音を立てて、俺の目の上でルスの舌が跳ねる。 「レイ……、いい子だ……」 ずっと瞼を押さえていたルスの手が離れて、かわりに俺の頭を労わるように撫でる。 滲む視界の向こうでルスが、うっとりと目を細めて、やたらと雄らしい色香を纏って、俺に笑ってくれた。 「ん……」 つられて笑えば、ポロポロと両眼から涙が一粒ずつ溢れた。 俺、ルスの期待に応えられたのか……? ホッと緩んだ胸に、ルスがくれた言葉が、褒められた事実が後から広がってゆく。 嬉しくて思わず解けた口元に、ルスが優しく口付ける。 いつもより、塩味のキス。 それになんだか励まされた気がして、俺は小さく胸を張った。 「やっぱりお前は、どこに触れても感じるんだな」 言われて、俺は返事に困る。 「っ……!」 別に、感じてねーし。とか。痛かっただけだし。とか。 言ったところでどうしようもないよな……。 ルスにこんな隠し事、できるはずもない。 「……ルスが。……触る、から……」 結局、子どもみたいに拗ねた言い草になってしまった。 大人気なく、唇を尖らせてそっぽを向いた俺の髪を、ルスはくすくす笑いながら撫でる。 「光栄だよ」 低く優しい声で囁かれて、一瞬で俺の内側が熱くなる。 ……っ、なんでいっつもルスばっかそんなに余裕あるんだよっ。 まだ涙の滲む瞳で、悔しい気持ちをぶつけるように、ルスの優しげに細められた小さな黒い瞳をじろりと睨めば、ルスは少しだけ目を見開く。 「鋭い眼差しも、また美しいな」 「――っっっ!!」 ベタ褒めかよ!!! カーッと顔が熱くなる。 「……ルスはさ、なんか……、俺の顔、好き過ぎじゃねぇ?」 「ああ、お前は最高に美しい男だと思うよ」 さらりと、さも当然というように、ルスは答えた。 …………!? 揶揄うどころか、逆に俺が死にそうなんだが!?!? 真っ赤になって背を向けた俺を、ルスが俺の背中に覆い被さるように抱きすくめる。 「レイ……美しいお前を、今夜も抱かせてくれないか?」 耳元で低く誘われて、その声に滲む欲を感じる。 それだけで、俺の内はこれから与えられるその感触を甦らせて、喜びに震えてしまう。 それほどまでに、俺の心と身体は、もうすっかりルスの色に染まっていた。

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