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第2話

「ちぇっ、ケチくさいな~」  二人は口をとがらせながら、部室に入ってきた。俺の両隣に腰かけて、なおも食い下がる。 「そんなこと言うなら、女子から預かったお前宛のラブレター、渡してやんねえぞ」  八つ当たりのつもりか、橋本が封筒の束をぶんぶんと振る。 「別に要らないから」  俺の夢は、母親と同じような立派な記者になることなのだ。そのためには、勉強しなければいけないことが山ほどある。恋愛にうつつを抜かしている暇なんぞ、ありゃしないのだ。 「くーっ、ここまで完璧だと、腹も立たねえわ!」  そういう割には怒った顔で、中川が言う。 「アルファでイケメンで、成績は学年トップ、伝統ある新聞部の部長、女子にはモテモテ!」  うん、と橋本も同調する。 「おまけに親父は総理大臣、お袋は名物記者、兄貴は優秀で留学中、妹は美少女!」 「なのにラブレターは要らないときた! 世の中はおかしいぞ!」  俺は、はーっとため息をついた。 「あのな。中川、橋本。いくら双子の兄妹だからって、踏み込んじゃいけない領域ってのはあるだろ。俺は記者を目指す身として、そこんとこは今からわきまえときたいんだ」  ぐうの音も出なかったのか、二人はぴたりと黙った。だが、そこへ思いがけない人物が割り込んできた。 「それも、お母さんが仰っていたことですか?」  声の主は、三石夏生(みついしなつき)、一年生の男子部員だ。アルファの割合が多いこの学校では、珍しいオメガ。この新聞部では、唯一のオメガである。優秀で記者としての着眼点も良く、俺は部長として内心注目していた。とはいえ欠点は、勝ち気で生意気なところだ。案の定奴は、こう続けた。 「白柳先輩って、ちょっとお母さんの影響を受けすぎですよね。そりゃ、すごい記者の方だってのは承知してますけど」 「おい、三石。失礼だぞ」  中川が、眉をひそめる。いいよ、と俺はとりなそうとしたが、三石はさらにこう言った。 「こう言っちゃ何ですけど、先輩ってマザコンなんじゃないですか?」  ――何だと……!?  さすがに俺も、マザコンというワードにはムカッとした。だがそこで、顧問の教師が入って来たため、話はそれきりになったのだった。

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