7 / 58

第7話

 大丈夫だ、と言い張っていた三石だが、俺が強引に保健室に連れて行ってベッドに寝かせると、パタッと眠ってしまった。放置するのもためらわれ、俺は仕方なく付き添った。いくらフェロモンの分泌が収まったとはいえ、こんな場所で一人にしたら、また誰かに襲われかねない。  すやすや眠る三石の顔には、いつもの生意気さはなくて、何だか可愛かった。よく考えたら、アルファばかりのこの学校で、オメガの彼がやっていくのは大変だろう。さっきみたいなことだって、もしかしたら初めてではないかもしれなかった。  ――突っ張るのも、無理はないか……。  俺を完璧、と表現した中川たちの言葉がふとよみがえる。確かに環境的には、恵まれている方だろう。何よりアルファというバース性は、努力では手に入れられないものだ。  ――俺、今まで理解してなかったのかな……。  記者になるための勉強を重ね、いろんな知識を得たつもりだったけど、身近な母さんや明希、三石の苦労は何もわかっていなかったかもしれない。そんなことを考えながら三石の顔を見つめていると、奴はふと寝返りを打った。その拍子に布団が乱れ、首筋があらわになる。そのうなじは意外にも細くて、俺は思わずドキリとした。  ――あ……、やば。  抑制剤で落ち着いたとはいえ、微量のオメガフェロモンはまだ漂っている。保健室なんて狭い空間に二人でいれば、なおさら意識せざるを得ない。  ――念のため……。  父さんがくれたアルファ用抑制剤を出そうと、鞄に手を突っ込んだ時。三石の目がパチッと開いた。 「白柳先輩? ずっと、付いててくれたんですか? ……ていうか、それは?」  三石の目は、俺が手にしている抑制剤の箱に釘付けだった。

ともだちにシェアしよう!