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第10話

「どうして? 望大とは、中学時代からの付き合いなんじゃ? 何でまた、一人で育てるだなんて……」  やはり望大が襲ったのだろうか、それを許せないのだろうか。ますます不安になった蘭だったが、三石はこう続けた。 「だって、先輩……、あ、中学の頃からこう呼んでるから、癖が抜けないんですけど……。先輩に悪いと思って。先輩は、僕のことすごく大事にしてくれてたんです。少なくとも、二人とも大学を卒業して社会人になるまでは、けじめだからって。僕と会う時、彼はいつも間違いが無いよう、オメガ用とアルファ用、両方の抑制剤を携帯していたんです。お父さんの教えだそうですよ」 (陽介が、そんなことを……?)  またしても初耳だった。三石は、照れくさそうに笑った。 「それなのにこうなっちゃったのは、僕が急なヒートを起こしたからなんです。部室で二人残って、調べ物をしていた時のことでした」  二人は、同じ新聞部に所属しているのである。 「でも! その時も先輩は、すぐ抑制剤を使おうとしたんです。だけど、思わぬアクシデントがあって。先輩は、抑制剤を上着のポケットに入れていたんですが、同じ部の人が、間違って先輩の上着を着て帰ってしまっていたんです」 「それで抑制剤が手に入らなかった、と」  蘭は、唖然とした。はい、と三石は頷いた。 「僕は先輩のことが好きだから、子供ができてもいいと思ってました。でもいざ妊娠がわかると、やっぱり迷惑はかけられないなって。ヒートを起こしたのは僕の責任だし、第一僕の実家は庶民です。白柳家とは釣り合いません」 「三石君……、いや、夏生君」  蘭は、思わず三石の手を握っていた。

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