23 / 58
第14話
その夜帰宅した陽介は、蘭の顔を見るなり言った。
「ああ、望大のことだけど」
「えっ……、何!?」
どう言い出そうか悩んでいた蘭は、ドキリとした。
「取りあえずは早く入籍したいと言っている。それから、早速アパートを借りて二人で暮らしたいと。もちろん、自分の金でね。俺は構わないと思うが、君は? この前君がひどく怒っていたから、言い出しにくかったようだ」
陽介が、少し微笑む。いいと思うよ、と蘭は答えた。
「俺も、ちょっと怒りすぎたかなって。それに、実は今日、偶然三石君本人と出会ってさ。彼、すごくいい子で……」
出会った経緯はひとまず省いて、蘭は、三石から聞いた話を陽介に告げた。
「俺、何も知らなかった。お前がそんなこと教えてたのも、望大がちゃんとその教えを守ってたってのも……」
陽介は、穏やかに頷いている。それ見たことか、とも言わなければ、なぜ出会ったのか尋ねることもしなかった。
「俺、心から二人を応援するよ。もちろん、家を出ることも。……あっ、でもあいつ、家賃を払うあてはあるのかな」
蘭は眉をひそめたが、陽介は意外なことを言い出した。
「家賃は払う自信があるようだし、初期費用はすでに用意したそうだよ。早速不動産屋を回って、物件探しをしているとか」
息子の頼もしさに感心する一方で、蘭はやや不安になった。
「あいつ、学生の身でよくそんなに金貯めてたな。……まさか、五大魔王の誰かが援助したんじゃ?」
五大魔王というのは、陽介の父母、蘭の養父母、そして蘭の実母・薫子 の五人の祖父母たちのことである。そろって孫たちに夢中な彼らは、何かに付け、過剰な小遣いやプレゼントを与えたがるのだ。
一方蘭と陽介は、『子供たちは質素に厳しく育てる』がモットーである。ただでさえ総理大臣の子供ということで、周囲はちやほやしがちだ。甘やかしてはいけないと、小遣いは一般家庭レベルに抑え、大学に入ってからはバイトもさせてきた。だが五大魔王は、蘭たちの目を盗むのが実に上手いのである。もはや、天敵でしかない。
ともだちにシェアしよう!