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第14話

 その夜帰宅した陽介は、蘭の顔を見るなり言った。 「ああ、望大のことだけど」 「えっ……、何!?」  どう言い出そうか悩んでいた蘭は、ドキリとした。 「取りあえずは早く入籍したいと言っている。それから、早速アパートを借りて二人で暮らしたいと。もちろん、自分の金でね。俺は構わないと思うが、君は? この前君がひどく怒っていたから、言い出しにくかったようだ」  陽介が、少し微笑む。いいと思うよ、と蘭は答えた。 「俺も、ちょっと怒りすぎたかなって。それに、実は今日、偶然三石君本人と出会ってさ。彼、すごくいい子で……」  出会った経緯はひとまず省いて、蘭は、三石から聞いた話を陽介に告げた。 「俺、何も知らなかった。お前がそんなこと教えてたのも、望大がちゃんとその教えを守ってたってのも……」  陽介は、穏やかに頷いている。それ見たことか、とも言わなければ、なぜ出会ったのか尋ねることもしなかった。 「俺、心から二人を応援するよ。もちろん、家を出ることも。……あっ、でもあいつ、家賃を払うあてはあるのかな」  蘭は眉をひそめたが、陽介は意外なことを言い出した。 「家賃は払う自信があるようだし、初期費用はすでに用意したそうだよ。早速不動産屋を回って、物件探しをしているとか」  息子の頼もしさに感心する一方で、蘭はやや不安になった。 「あいつ、学生の身でよくそんなに金貯めてたな。……まさか、五大魔王の誰かが援助したんじゃ?」  五大魔王というのは、陽介の父母、蘭の養父母、そして蘭の実母・薫子(かおるこ)の五人の祖父母たちのことである。そろって孫たちに夢中な彼らは、何かに付け、過剰な小遣いやプレゼントを与えたがるのだ。  一方蘭と陽介は、『子供たちは質素に厳しく育てる』がモットーである。ただでさえ総理大臣の子供ということで、周囲はちやほやしがちだ。甘やかしてはいけないと、小遣いは一般家庭レベルに抑え、大学に入ってからはバイトもさせてきた。だが五大魔王は、蘭たちの目を盗むのが実に上手いのである。もはや、天敵でしかない。

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