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第15話
だが陽介は、静かにかぶりを振った。
「俺も、一瞬疑った。でもな、違うそうだ。望大のやつ、大学入学当初からコツコツバイトをして、貯金していたみたいだぞ。今後は就職活動もあるのに大丈夫か、と念を押したが、やり抜く自信はあると言っていた。信用してやれ」
「わかった」
蘭は、素直に頷いた。望大がそう言うのなら、きっと大丈夫だ。信頼して、見守ってやろう……。
「君がそう言ってくれてよかった」
安心したように笑った後で、陽介はふと食卓を見た。
「……ところで、今夜はやけにご馳走だな。記念日でもないし……、何かのお祝いか? でも。法案通過祝いにしては遅すぎるな」
フィレステーキを見つめて、陽介は首をかしげた。他にもテーブル上には、彼の好物が山と並んでいる。疑問に思っても、当然だろう。
「……ああ、わかったぞ。君のお義父さんが無事だったお祝いだな?」
蘭の養父は最近、食欲が急低下した上に体重が異常に減った。胃癌かもしれないと大騒ぎして病院を受診したところ、単なる胃もたれだったのである。おまけに体重減少は、ヘルスメーターの故障だった。
「いや、それもほっとしたけどさ。そうじゃないんだ」
「なら、何だ。俺の父が、番のいるオメガに手を出して、危うく訴えられかけたのを無事もみ消した件か?」
「……勲先生のそんなのは、日常茶飯事だろ」
「じゃあ、一体何なんだ」
さすがの陽介も、焦れたようだ。蘭は、覚悟を決めた。陽介の目を見つめて告げる。
「陽介、聞いてくれ。さっき、三石君と会ったって言ったろ? ……あれ、産科でなんだ。……俺、妊娠した」
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