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第16話
陽介の瞳が、大きく見開かれる。ややあって彼は、にっこり笑った。
「そうか。俺としては、女の子がいいな。そして今度こそ、二十歳やそこらで嫁になんぞ行かせないからな」
「……それって、産んでいいってこと?」
あまりにあっさりした彼の返答に、蘭は気が抜ける思いだった。
「当たり前だろう。そりゃ、年齢的にリスクがあるようであれば、考えないといけないけれど。本当は、もう一人欲しいな、と思っていたんだ。でも、こればかりは授かり物だし。それに実際産むのは君だから、あまり負担をかけてもと遠慮していた」
「何だ……。実は俺もそう思ってたんだけどさ。何か、タイミングが合わなくて……。出産自体は心配しなくていいって。お医者さんに聞いた」
「じゃあ是非産んでくれ。……何だ、何か心配事でも?」
浮かない顔つきの蘭を見て、陽介は不安そうに尋ねた。
「いや……、総理としてのお前のイメージが悪くなったら、どうしようかって」
その点も、懸念材料であった。だが陽介は、けろりと否定した。
「まさか。逆だ。国のトップとして、率先して少子化対策に貢献している。素晴らしいじゃないか」
「はは。それならいいけどさ。でも……」
「……まだ何か?」
陽介が、顔をのぞきこんでくる。だってさ、と蘭はぼやいた。
「この前子供たちにあんな説教しといて、立場無いじゃんかよ。恥ずかしい」
「ああ、それでゆううつそうなのか」
陽介は、くすりと笑った。
「この件については、俺も同罪だろう。でも、もし君が親としての面子を保ちたいなら、一芝居打ってもいいぞ? 実は計画的な妊娠で、サプライズとして秘密にしてました、ってな」
「陽介……」
蘭は目を見張った。
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