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『ジャスト・サイズ』第1話

 カフェの一番奥の席に見慣れたベビーフェイスを発見すると、俺白柳望大(しらやなぎみひろ)は、いつもほっとする。カランカラン、と音を立ててドアを開ければ、奴はぱっと顔を上げた。ぶんぶん、と大きく手を振り回す姿に、俺は思わず笑みを漏らす。 (いつも同じ席なんだから、そんなに張り切って合図しなくても、わかるのに)  俺は真っ直ぐ歩み寄ると、奴の向かいに腰かけた。 「三石(みついし)、悪い。待たせたよな?」 「いえ! こっちこそ。お忙しいのに、すみません」  そう言ってぺこりと頭を下げるのは、中学時代の後輩、三石夏生(なつき)だ。  二つ年下の三石とは、俺が中三の一年間、同じ新聞部で過ごした仲である。その後卒業した俺は、同じ敷地内にある系列の高校へと進んだ。現在、俺は高一、奴は中二。だが三石は、たびたび俺を頼っては、こうして呼び出すのである。というのも……。 「今日は、誌面構成のことでご相談したいんです。白柳先輩だったら、どうされます? 村井(むらい)部長はA案を推されているんですが、僕は納得いかなくて」  三石が広げたペーパーを見て、俺は頭を抱えたくなった。 (ダサすぎ)  三石たちの先輩で、現部長である中三の村井は、今ひとつ力量に欠けるのである。そんなわけで三石はこっそり、俺に相談を持ちかけてくるのだ。本来、卒業した身の俺があれこれ口出しするべきでないのはわかっている。だが、同じく部長を務めた俺としては、自分がいなくなった後の部の様子は、やはり気になる。そこでバレない程度に、こうしてアドバイスしてやっているのだ。 「総取っ替えしたい」  ぼそりとつぶやくと、三石はちょっとうろたえた。 「ええっ!? そ、それはさすがに……」 「冗談だって。村井が怪しまない程度に直すとすれば……」  俺がペンを走らせ始めると、三石は真剣な面持ちでのぞき込んできた。俺は、そんな奴の表情をこっそり盗み見た。 (こいつ(三石)と一緒にいると、何だか安らぐんだよな……)

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