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第12話
「どっからそんな噂が出てんだ!」
血相を変えて詰め寄れば、中川はちょっとひるんだ様子だった。
「俺に怒るなよ……。てか、出所は俺も知らねえよ。それだけ、二人がお似合いってことじゃね? ……あ、そうそう。深沢の親父って、外交官なんだって。政治の名門・白柳家とは、家柄的にも釣り合うじゃん? それで誰かが邪推したらしい」
「……ったく……。何でそこまで想像膨らませるかなあ」
ゴシップ誌の記者並みだな、と俺はため息をついた。
「しっかりしろよ、新聞部! お前が噂の対象になってどうする」
げらげら笑う中川を、俺は小突いた。
「うっさいな! そんな噂が流れるとは思わねーだろ! 大体、高校生同士でそんなわけあるかっての」
すると中川は、意外にも反論してきた。
「だからお前は、自覚が薄いってんだよ。いい家の坊ちゃん嬢ちゃんほど、結婚相手だって早く決めるじゃん? 知らないだけでお前の親だって、もう考えてるかもよ?」
「……とてもそうは見えねーけど……」
言いかけて俺はふと、この前の父さんとの会話を思い出した。三石を俺の交際相手と思い込んでいた父さんだったが、どんな子か、なんて聞きもしなかった。まるで、俺が選んだ相手なら間違いは無い、とでも言うように。
(信用して、任せてくれてる……?)
俺は、あの時の父さんの台詞を思い出した。
――腹を割って話してみることだな……。
――大切な相手との対話は、おろそかにしてはダメだぞ……。
とはいえあれ以来、三石とは話せていないままだ。あの後中等部が、定期試験期間に入ったためである。試験明けに、三石がまた相談しに来た際にでも探りを入れてみよう、と俺は思っていた。
(でも、そういえば……)
俺は気がついた。試験が終わってしばらく経つが、三石はいっこうにコンタクトを取って来ない。こんなことは、初めてだった。
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