47 / 58

第20話

「部長就任、おめでとう。大変だと思うけど、頑張れよな」  俺は、三石に向かって微笑んだ。 「何かあったら、いつでも相談しに来いよ? これまでみたいにな」 「はい、ありがとうございます」  丁重に頭を下げた後、三石はちょっと口ごもった。 「あの、でも、一つお願いが。今度ご相談する時は、違うお店でもいいですか?」 「あれ、あのカフェ嫌なの?」  どうして急にそんなことを言い出すのだろう、と俺は訝った。これまで不満など、言われたことは無いが。そもそも、最初にあそこを指定したのは三石だ。 「そりゃ、別の店でもいいけど。俺はあの店のメニュー、割と気に入ってたんだけどな……。ああそうか、お前にはボリュームが多すぎるんだっけ?」 「だから違いますって!」  軽くからかえば、三石はむきになった。 「あれくらい、食べられるって言ってるでしょ! そうじゃなくて、先輩と深沢さんが話してた光景を思い出しちゃうじゃないですか。すっごくお似合いで……」  言葉の途中で、三石ははっとしたように口をつぐんだ。でも遅い。俺は、聞き逃さなかった。 「なるほど。やっぱり、妬いてたんだな?」 「えっと、違……」 「な、三石」  俺は、もう一度三石の目を見つめた。 「お前も同じ気持ちなら、言わせてくれ。俺と付き合って欲しい」  三石の顔が、熟れたトマトみたいに真っ赤になっていく。しばらくして奴は、か細い声ではい、と答えた。たまらず俺は、奴の頬を両手で包み込んだ。まだ濡れた感触がする。 「三石……」  俺はゆっくりと、唇を三石のそれに重ねた。

ともだちにシェアしよう!