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第14話

 設楽とおれはどちらもはぐれ者で、似た者同士だ。そう思うと理屈もへったくれもなしにそうしたい衝動に駆られた。上体を前に倒し、偏頭痛の発作にみまわれた後遺症に痙攣する頬をついばんだ。  そして虫がいい、と後ろめたさに苛まれつつ電話をかけた。SOSに応じてすっ飛んできた沢木は設楽に鎮痛剤を服ませると、おれをねぐらの隅っこに手招きして、こう言った。 「『この男の身内と早急に連絡を取りたし』って文を添えて、失踪者の情報を募るサイトにこいつの画像をアップした」 「おれは蚊帳の外かよ!」 「こいつは所帯持ちかもしれん。出かけたきり音沙汰のないこいつの行方を嫁さんが血眼になって捜してる可能性も、あるだろうが」  正論でたたみかけてこられたら、ぐうの音も出ない。沢木は仔猫の里親捜しで培ったノウハウを設楽のケースに適用したにすぎない、と頭では納得しても感情がついていかない。  独断専行が、やけに腹立たしい。 「俺は年に五匹は迷い猫を拾うが、引き取り手を捜すのとトイレのしつけは拾った者の義務だと肝に銘じてるし、実践もしてる。最期を看取る覚悟もないくせに捨て猫に気まぐれにエサをやって、あとは知らんぷりって偽善者どもと同列に扱われたくないんでな」 「……感謝してますよ。アパートの家賃が払えなくなってネットカフェを渡り歩ってたおれに寝場所を恵んでくれたのも、ディーラー稼業のいろはを教えてくれたのも、ボスだ」  頭をがしっと摑まれて仰のき、憎まれ口のひとつもたたくはずが、忸怩たる思いというやつを味わってうつむく。厳しさと、いたわしさがない交ぜになった表情に胸を突かれて。 「猫の寿命ですら右肩あがりに延びる一方だ。猫の数倍は長生きするこいつの面倒を冬哉、よぼよぼのジジイになるまで見きれるのか」  忠告は耳に痛いものだ。ふくれっ面になって設楽の額を冷やすタオルを取り替えるおれと、夢うつつにおれの手を探り求める設楽を見較べて、沢木が深いため息をついた。 「いいか、こいつはマトモになりしだい消えちまう公算が大きいってことを、忘れるな」  了解と、ぶっきらぼうに答えた。ふた言目には「冬哉さん」とさえずる設楽が淡々しい夢に等しい存在だということくらい釘を刺してくれなくても、ちゃあんとわかっている。  でも、人間(ヒト)はおうおうにして暴走するんだ。

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