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第4章 イーブンベット

    第4章 イーブンベット  発情期を迎えた大型犬が飼い主を対象にサカるのは別段、めずらしい話じゃない。また、飼い主が愛犬のをしごいてやる例もないことはない。   設楽の身元は依然として判明しない一方で、街はクリスマスイルミネーションに華やいでいった。この冬初めてみぞれが降ったある朝、おれと設楽の間に起こった出来事も、拡大解釈すれば飼い主とペットのスキンシップという範疇におさまらないこともない。  底冷えがしたその日、おれは設楽をベッドにつれ込んだ。  といっても設楽に夜伽を命じるとか、さもしい魂胆があって、ちょっかいを出したわけじゃない。風邪ぎみで悪寒がして寝つけなくて、手っ取り早く温まるために人肌を利用したというのが正直なところだ。  でも、設楽に深入りするな──と口うるさい沢木にうんざりって感じで、無分別な行動に走ったきらいがなきにしもあらずだ。  ところでシングルベッドを大の男ふたりで分け合うと、密着度が自然と強まる。ほどよい厚みがある胸に背中を預けてブランケットにくるまると睡魔が忍び寄ってきて……なのに硬いものが尾てい骨にあたって、せっかくのぬくぬくした気分が台なしだ。 「……勃たせるなよ、ジャマくさい」 「すみません。シャンプーでしょうか鼻先に馥郁とした香りがふわぁっと漂ってきまして、それでつい某所に不測の事態が」 「屁理屈をこねるな。五秒以内にやんちゃ坊主をおとなしくさせないと、ちょん切る」 「鋭意努力いたします。ですから、去勢の刑に処するのは、なにとぞご容赦を……」   ちょん切る云々は言葉の綾でも、すぐ真後ろでもぞもぞされると苛立つ。ベッドの右半分がへこみ、雄がいちだんとそそり立ってその存在を誇示するさまがひしひしと伝わってくれば、眠気も吹き飛んでしまう。  業を煮やして寝返りを打った。あわてふためいて後ろにずれる設楽に馬乗りになってスウェットパンツをずり下ろし、安眠を妨害してくれるシロモノを問答無用で摑み出した。 「もたもたと、ウザい。一発、ヌいてやる」 「めっ、滅相もありません!」  魔が差したといえば、確かにそうだ。おれ的には快眠を確保するための窮余の策で、設楽にしても下半身がすっきりするのだからウインウインといえる。  なんて調子でこじつけて、設楽にあらためて跨った。股間を隠しにかかる手をなぎ払い、下肢を太腿で挟みつけて抵抗を封じておいて、エレクションの途上にある怒張の輪郭を指先でなぞったおれは、セクハラおやじ顔負けだ。

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