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第17話

「かような醜態を演じさせて、冬哉さんはイケズなかたです」 「じゃ……ギブ・アンド・テイクでいく?」  設楽の手を摑み取って、すんなりした五指を順ぐりに口にふくんだ。パジャマのズボンと下着を一緒くたに蹴り脱ぐのももどかしく唾液をからませた指を谷間の奥にいざない、甘やかにひくつくに沈める。 「(なか)、かき混ぜてみて……」 「こう……ですか?」 「ん……上手。そこ、ぽちっとなってるとこ、重点的にこすって……んっ!」  つたないなりに官能の中枢を執拗にこね回されると、襞がさざめいて指を貪婪にぱくつく。話の持っていき方次第ではフルコースになだれ込むことは容易な場面で、それでいて番うのは自粛したのは、ひとえに設楽は妻帯者かもという疑いがぬぐいきれなかったから。  要するに、ふざけ合いの延長線上に留めておいたほうが得策だ、と判断したためだ(不倫男の奥さんに『人間のくず』呼ばわりされた経験がブレーキの役割を果たしたともいえる)。  ともあれ鞍になぞらえた胸板に上下逆さまに騎乗して設楽の眼前に秘処をさらけ出し、陽物を銜え直す。上顎のデコボコした部分をまんべんなく使って刀身全体をしごき、鈴口をしゃぶりたおしてとどめを刺すと、いきり立った雄はひとたまりもなく爆ぜて、口の中いっぱいに熱液がほとばしった。  芳醇なエナジーに舌鼓を打ち、飲み干すと、タガが外れる。おれは内奥を行きつ戻りつする指をきゅうっと締めつけて……、 「しだ、設楽……おれの握って……っ!」  ねだりがましげに腰を打ち振る。そして、に狙いを定めて内壁をノックされたせつな、放物線を描いて蜜がしぶき、あたふたと茎にかぶさってきた手をぬらつかせた。  付加価値は、人肌のぬくみ。誰かと悦びを分かち合うと、肉体的な(かつ)えにもまして心が満たされることを久しく忘れていた。  おれは飼い主に寄り添って微睡む猫のように設楽の腋窩におさまって丸くなった。彼の味をまとった唇を舐め回して独特のえぐみを堪能しながら余韻にひたっていたのだけれど、 「ボスが、沢木さんが掌中の珠と慈しんでおられるかたと過ちを犯した以上、かくなるうえは腹をかっさばいてお詫びを……っ!」  扉に突進する設楽にタックルの要領で飛びつき、お座り、と命じておいて衣装ケースを漁った。  借金の返済に充てるために換金できる家財道具は全部売り払ったときも残しておいた宝物はこの中に……あった。 「ほら、特別に仲よしだって印をやるよ」  狭き門をくぐって一流企業に入社した自分への就職祝いに中指の寸法に合わせて初任給で誂えた銀の指環は、設楽には小さい。  近頃手入れを怠っていたせいで黒ずんだそれを小指にはめてあげると、おれのイニシャルが透かし彫りであしらわれた指環が勲章であるかのように、設楽はうっとりと窓明かりに翳す。  良心の呵責……かな? 胸がちくりと痛む。  設楽と向かい合ってしゃがむ。異邦人めいて薄茶色い瞳を見据えながら彼の手を握り、 「あのさ、沢木とおれはべつにラブな間柄とかじゃないから。だから設楽は悩むなよな」  断言したうえで小指と小指をからませた。 「けど、さわりっこしたのは沢木には内証」  ゲンマン、と唱えた。設楽と秘密を共有するのもオツだ──脳天気にも、そう思った。

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