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第20話
だからカジノに帰ってきて沢木が手当たり次第にグラスを叩き割っている現場に遭遇したときも面食らうより先に、後片づけが大変だ──とため息をついたのだから暢気な話だ。
「あーあ、派手に暴れて。店を壊す気?」
破片がかすめて切れたみたいだ。なのに、にじみ出る血をぬぐうどころか腹の虫がおさまらないといいたげに椅子を蹴飛ばして回る沢木の頬に絆創膏を貼ってあげた。
それから箒を取りにいき、胸騒ぎを覚えながらもグラスの残骸を掃き集めているさなか、痺れを切らした。
「設楽ぁ、おみやげにタコ焼きを買ってきた。かくれんぼはやめて、出ておいで」
「あのスカポンタンなら『居候の分際で冬哉に手を出すとは何様のつもりだ』って怒鳴りつけてやったら、出てったぞ」
聞き終えないうちに撞球台が並ぶコーナーを駆け抜けてねぐらに急ぎ、扉を蹴り開けたものの、そこはすでにもぬけの殻だ。しかも、ベッドの上に書き置きが一通。
文面はたった一行〝お世話になりました〟。
「お世話、に? おれにひとっことも断りなしで、どこをぶらついてんだよ……っ!」
「帰巣本能ってのが、あのキ印をご自宅まで無事に導いてくれるだろうさ」
おれはドア口に寄りかかってジンをラッパ飲みに呷る沢木を睨 めつけて、なじった。
「『客寄せパンダにうってつけだ』とかって設楽を重宝してたのは、どこの誰だっけ?」
せせら笑いを浴びせかけざま沢木に摑みかかって、喉頸を絞めあげた。
「捨て猫の里親捜しに奔走するくせにウザくなったら設楽はポイか! 人でなし!」
「恋敵を排除して何が悪い!」
ジンのボトルが壁に叩きつけられ、すさまじい剣幕にたじたじとなったせつな、縦抱きに抱きあげられて爪先が浮いた。
否応なしにベッドに抱き下ろされて、間髪を容れずに覆いかぶさってきた沢木の鳩尾に膝をめり込ませるのももどかしく飛び起きて床に逃れる。しかしリノリウムの継ぎ目に蹴つまずいて上体が泳いだところにのしかかってこられて、両手両足をがっちりと押さえ込まれた。
武芸に秀でた沢木は柔道の心得もあって、寝技に持ち込まれたら体格的に格段に劣るおれに到底勝ち目はない。ジーンズもろとも下着を剝ぎ取られて早々に腰高に這わされて、男を受け入れる姿勢を力ずくでとらされた。
「冬哉、頼む。おとなしくしてくれ」
猛りが後ろにあてがわれると虫唾が走り、死に物狂いになって両足をばたつかせた。
圧倒的な重みが若干、遠のいた機に乗じて、おれの手首を床に縫いとめる指に思いきり嚙みついた。反撃を受けたことでかえって逆上したふうにガムシャラに亀頭を突き入れてくる沢木に今度は頭突きをおみまいする。
思わずのようにのけ反った彼を張り飛ばすが早いか巌 みたいな躰の下から這い出し、けれど、くるぶしを摑まれてうつ伏せにひしゃげた。
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