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第21話

   沢木を手玉にとるような曖昧な態度をとりつづけてきたツケが彼を蛮行に駆り立てるというかたちで回ってきた以上、自業自得。かといって罪滅ぼしに沢木に抱かれた──では設楽に顔向けできない。  と、(けだもの)じみた形相が、せつなげにゆがんだ。 「我慢の……我慢の限界なんだぞ? 俺は聖人君子でなけりゃ、枯れてもいないんだ」   沢木は自嘲ぎみに嗤って、眉間を揉んだ。 「おまえの心の傷が癒えるのを待ちつづけて今さらトンビにアブラゲじゃ、おまえを愛おしんできた俺は、いい面の皮じゃねえか」 「あなたは兄貴分以上でも以下でもない!」 「ハッ、おためごかしは、たくさんだ!」 「犯りたきゃ犯りなよ、野蛮人。けど、そのデカマラ、削ぎ落としてあげるけど?」  断ち割られたボトルのネック部分をたぐり寄せた。鋭い断面をイチモツに突きつけて沢木を牽制する。そのうえで股ぐらをさらす。  身じろぎもしないで対峙して数十秒後、先に目を逸らした沢木が下着を放ってよこした。 「とち狂って、ざまあないな。恋に先着順は通用しないのはわかっちゃいるんだが、設楽に出しぬかれたとあっちゃ……やりきれん」  髪の毛をかきむしると床にどさりと大の字になって、チクショー! と吼えた。 「ケジメはつけるよ。おれ、ここを辞める」 「見損なうな! 俺は公私混同しておまえをクビにするほど、せこい男じゃない!」    当てつけにへべれけに酔っぱらってやるが、と凄まれて廚房に走った。バーボンとチーズを引っ摑んで取って返し、沢木のスマホに保存されていた設楽の画像をおれのそれに転送するのもそこそこに身を翻すと、ねぐらを飛び出すまぎわに待ったがかかる。 「SNSを通じて、こいつの氏素姓を知らないかって情報提供を呼びかけただろう。ガセネタばかりの中に、いくらか信憑性があるのが混じってた。設楽はギリシアの海運王の御曹司ってのに、そっくりだとさ」  沢木はバーボンをぐびりと()って締めくくると、右手をひらひら振っておれを急かす。 「さあ、設楽を捜しにいけ。ただし遅刻したときは、おまえら二人まとめて減給処分だ」

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