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第6章 ローベット
第6章 ローベット
幸いなことに設楽の行動半径は狭い。道行く人に片っ端から設楽の画像を見せて歩き、宵の明星がまたたくころ、聞き覚えのない、けれど哀愁を帯びた口笛の調べにいざなわれた。
そこはビルの谷間にポツンとある公園だ。車止めを跨ぎ、落ち葉が散り敷かれた園内をあわただしく見回して、へたり込む。
ジャングルジムのてっぺんに、背高のっぽの人影を見いだして。
捜した見つけた心配した帰るぞ……。
ジャングルジムに駆け寄って設楽をせっつけば万事解決といく場面なのに、木枯らしに全身を嬲られつつ口笛を吹く後ろ姿が喩えようもなく淋しげで、足がすくむ。
おれは、浅はかだ。人前では笑みを絶やさないけれど設楽はアイデンティティを喪失した恐怖におののき、ともすればつのりゆく不安と密かに闘っていたのかもしれない。なのに、彼の心情を慮 ってあげられなかった。
枯れ葉が突風に舞い狂い、相前後してけたたましいクラクション。ぎくしゃくと首 をめぐらせた設楽が、おれを認めて目をぱちくりさせた。ひと呼吸おいて、ほんのり微笑 った。
「奇遇、いえ、見つかってしまいましたね」
「ああ、誰かさんのおかげで半日つぶれた」
バツが悪げにうつむくさまに肺腑をえぐられて、おれはうなだれた。殊更すばしっこくジャングルジムに登って設楽の隣に落ち着き、両足をぶらつかせながら話しかけた。
「沢木に八つ当たられたって? 元凶、おれなのに、とばっちりがいってゴメン」
「わたしのごとき胡乱な輩 が冬哉さんと起き伏しをともにすればボスが怒り心頭に発するのは、無理からぬことです」
「ごときって……自分で自分を貶しめるな! ひがみっぽい設楽なんて、らしくない!」
すっくと立ち上がったはずみに、金属パイプを踏みはずした。すばやく抱きとられて、危うく地面に転げ落ちるのを免れて息を呑む。
固辞する設楽に強引に買ってあげたダウンジャケットを持ち出す余裕すらなかったとみえて、カットソー一枚の姿でさまよったあとの躰は、ひやっこい。
日が暮れるにつれて猛烈に冷え込んできたにもかかわらずカジノに帰れないときては今夜の宿にたちまち困り、寄る辺ない境遇に途方に暮れていただろう設楽の胸中を推し量るとやるせない。
彼に累が及ぶ原因を作ったてめえの愚かさが慚愧 に堪えないって感じで、手足が独りでに動く。
ぬくもりを分けてあげたい一心で、胴震いが止まらない躰を力いっぱい抱きしめた。
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