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第36話

 考えてみれば人生ってやつは、美酒に酔いしれるのも、やけ酒をかっ食らうのも運次第というルーレット同様、どんでん返しの連続だ。  人間、誰しも二面性を持っているのがふつうで、言いかえれば鼻もちならない面がある設楽も、一緒にいると日だまりで微睡んでいるように安らぐもひっくるめて設楽だ。  設楽が設楽であることに価値があって、紆余曲折を経て分かちがたく結ばれた歓びに感涙にむせんでしまうという真実(ほんとう)のところは金輪際、教えてあげない。  さしあたって、釘は刺しておく。 「『肝に銘じて』は、こっちのセリフ。おれは泣き虫で、わがままで、ヤキモチ焼きで、可愛げもありませんから、そのつもりで」 「おたがいさまだ。わたしも嫉妬深い点に関しては、人後に落ちない」  ベッドの中でもワンサイドゲームではつまらない。おれは早速、猛りを軸に半回転して設楽に跨った。躰の中心を貫く鈍い痛みが薄れていくにつれて、襞がめっきりまろやかになっていく。  カジノの扉を開いたときはいの一番にチップを購入するように、〝恋人〟を反芻すると目縁が赤らむ男性(ひと)の胸をはだけた。筋肉の稜線が綾なす蠱惑的な陰影を唇でなぞり、それと同時に進んで(つるぎ)を鞘におさめて設楽をあやす。  頭上は天の川。クルーザーはたぐい稀に甘美な(しとね)で、ふたりひと塊になったシルエットが、銀波がさざめく海面をたゆたっていた。

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