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今年もよろしく(第5話『わんこと年越し』5)
かわいい、と言って朝倉は俺の頬にキスをした。もうテレビはついてない。抱き合ったあと、すぐに朝倉が消した。
朝倉は、いつも俺に『愛してる』って言ってくれる。だから、俺も言わなくちゃ。朝倉が不安に思ってるなら尚更だ。
ゆっくりでいいから、ちゃんと言おう。俺たちにはたっぷり時間がある。
「朝倉。俺、ここにいるときは甘えん坊になりそう」
「気にすんなよ。かわいがってやるから」
「じゃあ早速。朝倉、ぎゅってして?」
「こうか?」
「もっと、もっと」
「はい、ぎゅー……」
朝倉は、きつく俺を抱きしめた。
抱かれたあとに抱きしめられると、愛されてるってわかる。朝倉はちゃんと言葉にしてくれるけど、肌で実感するとよりいっそう満ち足りた気分になる。
「はー。幸せすぎる……」
俺は目を閉じた。うとうとしてきた。朝倉は俺の背中をぽんぽんと叩いた。
「眠たいんだろ? 少し寝ようか」
俺は目を開けた。
「うん……。俺ね、朝倉といろいろしたいんだ。初日の出、見て、初詣に行って……」
「起きたら、全部しよっか?」
「気持ちいいから、寝正月になりそうだよ……」
「それもいいじゃん。一日遅れて初詣に行っていいし、初日の出は来年チャレンジだ。俺たちはずっといっしょだから」
「朝倉、甘やかすの上手……」
「わんこは飼い主に似るんだよ」
「そっかあ……」
「おやすみ、橋本」
「うん、おやすみ……」
「おはよ、橋本。……なんだ、じっと見て」
明かりがなくても部屋が明るい。もうお昼過ぎみたいだ。
「朝倉。お手」
「ん」
朝倉は俺の手にお手をした。
「思わず初夢の続きしちゃった」
「どんな夢、見たんだよ」
「内緒」
「まあ、予想できるけどな」
「ははは。あー。朝倉、かわいかったなー」
俺の初夢。朝倉に耳と尻尾が生えていた。ふたりで野原を追っかけっこして、ごろごろしてる夢だった。
「俺はいつでもかわいいだろ」
「そうでした、わんこさん。よし。シャワーを浴びたら、初詣に行くか」
「えらい飼い主だなあ。正月もわんこと散歩するなんて」
「ははは」
笑いながら、俺は朝倉に優しくキスをする。
朝倉、今年もよろしく。
【第5話おわり】
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