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EP.14
這わせた指で、布越しに海の胸の柔らかさを感じる。
ふわふわで重みのある脂肪と、筋肉だろうか。思いの外弾力のあるそれを、泉帆はそっとだけ揉んでしまった。
色気もない、ただ筋肉の存在を確かめるだけの動き。海は擽ったいと笑った。
「運動はしてないって言ってなかった?」
「筋肉つきやすいタイプなんだよね。これ以上太っちゃうのはやだからちょっとだけ体動かすんだけど、なかなか細くなれなくって」
腹筋も割れてるんだよ、と言いながらぺろりと服を捲り上げて見せてくる。
贅肉だけで柔らかそうだと思っていた腹は薄らと割れていて、程よく鍛えらえていた。筋肉がつきにくい体質の自分からすれば大分羨ましいものだが、海は細身になりたいようで不満げだった。
「でも、筋肉がつきやすいからくろちゃんもおっぱい触れるんだけどね。筋肉触るんじゃなくてちゃんと揉んで?」
「わ、ちょっと」
手を重ねられ、左右から持ち上げるように弾力のある胸を揉まされる。掌に何か硬く小さいものが当たる感触があるが、それには触れないようにして次第に自分からも指を動かし始めた。
下から持ち上げるようにしたり、指先でぷにぷにと触れてみたり。海の手が離れてからも自分が『他人の胸』に触れている事実に、半ば興奮してしまい指を離すことができなくなった。
柔らかい。気持ちいい。時折息を殺したような吐息まで聞こえ、昨夜のことを益々鮮明に思い出してしまう。
適当に着替えた時にデニムにしたのは間違いだった。男の興奮をわかりやすく表すそれは、視界と手の感触の情報量だけで硬い生地を押し上げ窮屈そうに反応を示していた。
元々キスもできる距離のままだった。海は目敏く反応を見つけてしまったのか、腕を伸ばし生地越しに爪で軽く掻いてきた。
「ねえ、ちゃんと約束守ってくれる?」
「……ずっと、友達のまま?」
「うん。あーあ、おれずっと隠しておきたかったのに、くろちゃんが抱き締めてくるからこうなっちゃったじゃん」
あの時抱き締めなければ、海は全部黙ったままだった。
自分がゲイなことも言わなかったし、セックスをしたかったことも、泉帆が好きだったことも。
泉帆が寝惚けて抱き締めてしまったから、海は我慢ができなくなった。売春をしている程の単純で弱い理性は好きな相手と密着しているだけで焼き切れて、一度だけと思っていたのにまたすぐにこんなことになって。
海は、触れるだけの軽いキスをしてきた。
「まあ、ちゅーしたくて我慢できなかったおれも悪いんだけどさ。おれとちゅーしただけなのに勃っちゃったのなんて見たら、我慢なんて無理だよ。だっておれ、色んな人に抱かれてる悪い子だもんね」
「……たとえ付き合ったとしても、外では黙っておくとか」
「無理だよ。大学にだってフォロワーいるし、いっつも交番に来てる子たちは絶対気付くでしょ。くろちゃん、おれと違って嘘は吐けないタイプでしょ?」
「……それは、まあ確かに」
それに、と海は更に続ける。
「おれ、誰かの1番とかにはなりたくないんだよね。どうせそのあと2番とか3番になるし、逆に1番大嫌いになるかもしれないし。おれくろちゃんのこと好きだもん、友だちとしてもね。だから、抜いてはあげるけど付き合ってはあげない。童貞のお世話もできないし、くろちゃん絶対実家いいとこじゃん。女の子と結婚するときまで大事にとっときなよ」
「でも」
「これ以上言うなら気持ちいいこともうおしまい。ご飯作るだけにまた戻るけど、くろちゃんはそっちの方がいい?」
童貞だから、経験がないからその拗らせた性に対する感情を口実にされているのはわかっている。
ただ、海の言うことも一理あるにはある。1番好きでも何らかのきっかけで別れることなんてザラにある。今までの自分だって、彼女達の中で1番じゃなくなったから捨てられてきた。
「お付き合いはしないけど、ちゅーもするしフェラもするお料理上手な通い妻はいりませんか?」
「……その聞き方、卑怯じゃないかな」
「だってくろちゃん、えっちなこともおれの料理も好きでしょ?」
それに、通い妻だって。海は昨日DVDをしまい込んだ収納をちらりと横目で見る。
あのAVの中にあったものに気付いていたのか。泉帆は頭を抱えたくなりながら、指先でデニム生地の中で窮屈そうに暴れている自身の欲を撫でまわしている海を見下ろし頷いた。
「わかったから、もうその生殺しはやめて……」
「はぁい。ベッドの上座ってくれたらご奉仕しやすいから、そっちに座ってね」
海は立ち上がり、全開にしていたカーテンを閉めてくる。まだ昼日中のこんな時間から、なんてことを。
厳しく躾けられ倫理観の凝り固まった生き方をしていた泉帆は、そんなことを思いながらも一度箍が外れてしまったことで何もかもを止められなくなってしまっていた。
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