23 / 40

EP.23

 もっと触れたい。大事にしなければ。今すぐ襲いかかってしまいたい。海は自分とはどうともならない。  葛藤しながらも、視線は自分に押し付けられている胸にしかいかない。  柔らかい。気持ちいい。触れたい。両手はまだ海の胸に触れたまま。泉帆は肌を凝視したまま手を這わせ、次第に荒くなる息を隠しもせず筋肉と脂肪の塊を揉み始めた。 「ねえくろちゃん、おれ風邪ひいちゃうよ?」 「もう、ちょっとだけ」 「くろちゃんが触ってるの、他の男がつけたやつだよ?」 「わかってる」 「……もー、なんでおれの考えるのとは真逆にいっちゃうの? 幻滅してよ。自分のものにならないって諦めてよ。乳首にピアス開けてるようなビッチ、1番にしたってくろちゃんに何の得もないじゃん」 「つけたくて開けたわけじゃないなら、幻滅なんてしないよ。愛されたかっただけなんだろ」 「……そう、だけど」 「だから、それごと全部ひっくるめて俺は海くんのこと守ってあげたいって思ってるんだよ。海くんを幸せにしたいって思ってる。したいのが我慢できなくて他の人に抱かれるくらいなら、俺が毎日でも相手するから」  その言葉に、海が揺らいだのはすぐに気付いた。  畳みかけるように泉帆は続ける。 「確かに経験もないし、元は女の人が好きだった。でも今は海くんが好きだし、海くんのことしか考えられない。君は、俺が誰かと付き合った後に他の人に靡くような不誠実な男だと思ってる?」 「……おもって、ないけど」 「じゃあ何も問題はないだろ。人の家に押しかけて君の作るご飯じゃないと満足できない体にして、こんなに好きにさせておいて、俺だって聖人君子じゃないからこれ以上は我慢できないよ」 「でも、でも」 「可愛い弟分として面倒見てたと思ってたのに、君のこと本気になった。責任とって俺のこと一生愛してほしい」  ぐい、と体を寄せて押し倒す。頭をぶつけないように手で押さえてやり、赤く染まった頬を親指で軽く撫でた。 「それとも、俺が童貞だから駄目だってまだ言うの?」 「……おれ、くろちゃんよりおっきいよ」 「知ってるよ。もう十分わかってる」 「まだ、未成年だよ」 「そこまで子供じゃないって言ったのは君だよ」 「……メンヘラだし、重いよ」 「一途ってことでしょ? 他の人に抱かれて発散させてた分も、俺にぶつけて」  あと、少し。  泉帆は正面からじっと海を見つめ続ける。  海は、躊躇ったあとに腕を伸ばしてきた。 「くろちゃん、寒い」 「……わかってる」 「寒いし、痛い。ほっぺもだけど、それだけじゃなくて、全部、全部痛い」 「うん」 「……あっためて、痛いのも忘れさせて」  泉帆の背中に、腕が回される。  それを受け入れ、自分も海をきつく抱き締めた。 ***  ベッドに移動し、海は寒いからと冬用の布団を被った。泉帆も共に入り、キスをしながら胸のピアスを弄り肌に手を這わす。  これまで身体を重ねてきた不特定多数の男の前で裸になることはなかった。だから、こうしてピアスを見せているのは泉帆だけ。  今海と関係を結べる相手の中では、泉帆しか知らない。  性行為に関してはアダルトビデオで見た知識しかない。だから海が望むまま、海が求めることをした。 「ねえ、名前で呼んでもいい?」 「いいよ。好きに呼んで」 「んーっと、……みずくん?」 「……可愛い」 「もっと可愛いって言って。もっと触って」  ピアスに触れていた手は腰へと移動させられ、何度もキスをしていた顔を胸の辺りで抱かれた。  胸に唇を触れさせ、金属ごと食む。小さな突起を舌で転がせば、それが正解だったようで海は甘く吐息を漏らした。  吸いつき、食み、軽く噛みつき。泉帆の行動に、海はその髪を撫でながら笑った。 「赤ちゃんみたい」 「海くんは、赤ちゃんだと思ってる男とセックスするの?」 「こんなこと思うのみずくんだけだから、そんなこと聞かれてもわかんない。……ね、ゴム買ってある?」 「ないよ、海くんが受け入れてくれるって思わなかったし」 「じゃあ今日はだめだぁ。ね、明日はお休み?」 「一応、明日から夏季休暇なんだよね。5日間はずっと休み」  今日は朝に24時間勤務が終わったばかりで、明日から休暇をとった。だから実質6連休のような形だ。  それを聞き、海はじゃあと笑った。 「今日の夜、ゴム買ってきてね。おれの持ってるのじゃみずくんおっきくて入らないから」 「……我慢、できるかな」 「流石に初めてで生はやめた方がいいんじゃないかなぁ。おれは好きだけど」  他の男には、させているのか。  嫉妬に駆られるも口に出さずにいれば海は察してのしかかってきた。  心地よい重みを腹に感じながら、布団の下の暗がりで妖しく光る瞳が三日月のように細められる。 「慣れてきたらにしようね。もう他の人とはしないから我慢して?」 「……本当に、もうしない?」 「疑うなら、毎日おれとえっちして早く慣れて?」  搾り取られる。泉帆は直感でそう感じた。  海がこれまでどのくらいの頻度で男に抱かれてきたかなんて知らない。もしかしたら安請け合いをしてしまったかもしれない。  後悔はしないが、経験がないから少しだけ不安だ。もし満足させてあげられなければ、海はまた他の男に? そんなの我慢できないが、もし本当にそうなったら。  そんな不安をよそに、獣のような雰囲気を纏わせ始めた海は泉帆に襲いかかった。

ともだちにシェアしよう!