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第9話
100歩譲って、せめて妹の方なら……と考えてはみたが、いや……無いな。
あんなキラキラ美少女、俺の手には負えない。
和久井だから、並んでも平気なんだろう。
俺が付き合ったりなんかしたら、隣に俺で良いのか?とか、他の奴が良くなって捨てられるんじゃないだろうか?とか、余計な心配をして胃に穴が開きそうだ!
人生において、平凡な生活を望む俺にはハードルが高い。
……もっとも、今のこの状況。
異世界に召喚されている時点で、平凡な人生から逸脱してしまっているんだろうけど。
そんな事を考えていると、唇を尖らせて俺の前の席に戻るシルヴァが見えた。
「多朗は、僕が女性だったら好きになってくれた?」
突然聞かれて、間髪入れずに
「それは無い!」
と答えると、不思議そうな顔をして俺を見つめている。
「シルヴァは男だから、キラキラしていようがイケメンだろうが友達になれる。でも、女だったら俺はまず近付かないな」
「じゃあ、多朗は僕が男だから仲良くしてくれてるんだ。じゃあ、男で良かった」
無邪気に微笑むシルヴァの美しい笑顔を見て、俺は馬車の外に顔を向けた。
俺達が生まれ育った世界とは違う、絵本やゲームのような世界が広がっている。
いつ、元の世界に帰れるのかも分からない中、それでも寂しいとか辛いとか思わないのは、みんなが俺たちを気遣ってくれているからなんだろうな……。
「シルヴァ……」
「ん?なんだい?」
「水……出ると良いな」
ゆっくりと流れる景色を見つめ呟いた俺に、シルヴァは小さく頷いただけで、黙って俺の横顔を見つめていた。
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