9 / 107

第9話

100歩譲って、せめて妹の方なら……と考えてはみたが、いや……無いな。 あんなキラキラ美少女、俺の手には負えない。 和久井だから、並んでも平気なんだろう。 俺が付き合ったりなんかしたら、隣に俺で良いのか?とか、他の奴が良くなって捨てられるんじゃないだろうか?とか、余計な心配をして胃に穴が開きそうだ! 人生において、平凡な生活を望む俺にはハードルが高い。 ……もっとも、今のこの状況。 異世界に召喚されている時点で、平凡な人生から逸脱してしまっているんだろうけど。 そんな事を考えていると、唇を尖らせて俺の前の席に戻るシルヴァが見えた。 「多朗は、僕が女性だったら好きになってくれた?」 突然聞かれて、間髪入れずに 「それは無い!」 と答えると、不思議そうな顔をして俺を見つめている。 「シルヴァは男だから、キラキラしていようがイケメンだろうが友達になれる。でも、女だったら俺はまず近付かないな」 「じゃあ、多朗は僕が男だから仲良くしてくれてるんだ。じゃあ、男で良かった」 無邪気に微笑むシルヴァの美しい笑顔を見て、俺は馬車の外に顔を向けた。 俺達が生まれ育った世界とは違う、絵本やゲームのような世界が広がっている。 いつ、元の世界に帰れるのかも分からない中、それでも寂しいとか辛いとか思わないのは、みんなが俺たちを気遣ってくれているからなんだろうな……。 「シルヴァ……」 「ん?なんだい?」 「水……出ると良いな」 ゆっくりと流れる景色を見つめ呟いた俺に、シルヴァは小さく頷いただけで、黙って俺の横顔を見つめていた。

ともだちにシェアしよう!