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第10話 異世界での活動スタート

「良いか! 水鳥の羽根は欲しいが、絶対に殺すなよ! 落ちてる羽根で良い」 水鳥の羽根収集作戦の依頼をするシルヴァに言い聞かせる。 「そんなに何度も言わなくても分かってるよ」 苦笑いするシルヴァに 「いや、お前なら1羽殺して持って来そうだ」 と言うと 「まぁ……最初はそう思ったけど……」 なんて言われて、やっぱり……って肩を撫で下ろす。 城下から比較的近い農村地帯を見ただけだが、かなり土地が痩せて来ている。 早急に対処しないとならないと考えながら 「シルヴァ、城に戻ったら俺の部屋に来れるか?」 と聞くと、シルヴァが目を輝かせ 「勿論だよ! 多朗」 そう言って両手を広げているシルヴァに 「阿呆! 何を想像してるんだよ! これからの打ち合わせだからな」 目を据わらせて言うと、シルヴァは唇を尖らせて 「分かってるよ! 少し位、夢を見せてくれたって良いじゃないか」 ブツブツと前の席で文句を言うシルヴァを横目で見て、俺は思わず笑ってしまう。 こんなにキラキラしたイケメン王子が、俺の言葉に一喜一憂して表情をコロコロと変える。 こう見えても一国の王子なので、シルヴァの一日はかなり多忙だ。 王子として働いているシルヴァは、俺の前で見せる表情とは違い穏やかな笑顔を浮かべてはいるが、毅然としていて壁を作っている。 言葉にはしないが、こいつの肩には俺の知らない重責がのしかかっているのだろう。 そんな事を考えながら馬車で城に戻ると、俺の部屋でシルヴァと打ち合わせをしていた。 気が付くとかなり時間が経過していたらしい。 メイドさんがお茶とお菓子を持って来たので、休憩を取ることにした。 ふと見た窓から、テラスで仲良さそうに和久井とエリザ姫がお茶している光景が目に入る。 おぉ!……イケメンに絶世の美少女の組み合わせ。 まるで少女漫画の世界だなぁ~と見ていると 「エリザと……奏斗殿ですか?」 シルヴァが隣に並んでテラスを見下ろし呟いた。 俺は隣で黙って2人を見ているシルヴァの横顔を見て、溜め息を1つ吐く。 「美男美女でお似合いだなぁ~と思って見ていただけだぞ」 「……僕は何も言ってないが?」 「顔に『本当はどちらかを好きなのでは無いか?』って書いてあるんだよ」 「……」 俺が呆れた顔でシルヴァを見ると 「多朗は、気付かなくて良い事も気付くから……」 と苦笑いを浮かべた。 「嫌いになったか?」 ニヤリと笑って言うと、シルヴァは大きな溜め息を吐いて 「そういう所は嫌いです」 そう答えて俺に背を向け、優雅な足取りでドアへと歩き出した。 「視察の件やその他の事は、父上に話してはみます。水鳥の羽根の件は、水不足で水鳥の居る場所は限られています。数日掛かるかもしれませんが大丈夫ですか?」 ドアノブに手を掛けて尋ねるシルヴァに、俺は肩を窄めて 「時間はたっぷりあるからな。大丈夫だ」 そう答えて小さく笑った。 シルヴァはそんな俺を見て寂しそうに笑うと 「分かりました。状況が分かり次第、又報告しますね」 とだけ言い残し、部屋を後にした。 最後のシルヴァの表情が気になったけど、俺は特に気にも留めずに窓の外の景色を眺めた。 ここから見る景色は、まるでアニメや映画のセットのように美しくて平和に見える。 穏やかに談笑している和久井とエリザ姫に一瞬だけ視線を戻した後、赤く染まる景色に視線を移した。 夕焼けに真っ赤に染まる空と城下町を見ながら、シルヴァが去った部屋は急にガランとして広く感じた。

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