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第11話

その日から1週間。 羽根が集まるまで、シルヴァは忙しいらしく俺の部屋に顔を出しに来なかった。 あんなに毎日、毎日、くっついて回られていたのに、急に来なくなると寂しいもんだな……。 俺は和久井に頼んで、この国の視察に早々にでも出してもらうように国王に直訴した。 (シルヴァにも頼んであるが、ダメ押しってやつだな) 現状、水不足とはいえ、城下町ではまだそんなに緊急性を感じない。 俺が見た枯れた田畑は、城下町を少し過ぎた場所だった。 出来れば緊急性が高い場所から井戸を作り、少しずつこの国を回復させていかないと問題は解決しないように感じた。そして、それは和久井からの提案という事にもさせて貰った。 俺はあくまでサブキャラで、表では和久井がヒーローの方が動き易い。 和久井は「神代の案なのに……」と、めちゃくちゃ嫌がったが 「協力してくれたら、エリザ姫との恋を協力してやる」 という交換条件を出して了解してもらった。 (恋する男は扱い易くて助かる) まぁ、実際。 エリザ姫の様子を見ても、和久井に好意的なのは一目瞭然だ。二人で見つめ合う顔なんぞ、恋人にしか見えない。あれが両片思いってやつなんだろうな。 そんな事を考えていると、荒々しく部屋のドアが開かれた。 「多朗!」 シルヴァが珍しく血相を変えて入って来た。 旅支度をしていた俺が 「シルヴァ、どうした?」 と呑気に返すと 「どうした? って……。何、呑気に言ってるんだよ! 明日から視察に回るんだろう? お共は? 警護は?」 肩を捕まれ、矢継ぎ早に言われて戸惑う。 「シルヴァ、落ち着け。国の中を回るのに、何をそんなに慌ててる」 「国の中って……。良いか、多朗。この国の中でも、治安の悪い場所はある。警護も付けずに旅に出るなんて無謀だ!今、手順を踏んで準備しているから待ってくれ」 「手順って……大丈夫だよ。俺が襲われたって、取るものなんて何も無いし。心配し過ぎだよ」 笑って答えた俺に、シルヴァが 「多朗は異世界の人間なんだ! 売ったら高値が着く。人身売買されたらどうするんだ!」 真顔で叫んだシルヴァに、俺は小さく微笑んで 「そうなったら、お前が助けてくれるんだろう?」 と答えた。 その瞬間、シルヴァに強く抱き締められて 「この国の中だったら、幾らでも探し出して助けてやれる。でも、国外に売られたらおしまいだ。頼むから……、一人で行動しようとしないでくれ」 震えて訴えるシルヴァの背中に手を回し、俺はシルヴァの背中をそっと撫でた。 「大丈夫だよ。和久井の話では、王様が俺にちゃんと強い警護を着けてくれるって言ってたらしいし」 そう答えた俺の頬に触れ 「僕が着いて行けたらどんなに良いのか……」 サファイアの瞳を揺らしながらシルヴァが呟いた。 俺は異常に心配するシルヴァに微笑み 「ババ様の予言では、俺はお前の伴侶になるんだろう?だったら、無事に戻れるよ」 って呟いた。 「約束して下さい。必ず、必ず生きて帰ると……」 「分かった、約束するよ」 「絶対ですよ!」 そう言うと、シルヴァの顔が近付いて来た。 ……きっと、シルヴァがあんまり心配するから気を許したんだ。 そう、ちょっとした気の迷いだ! 俺は、ゆっくりと触れるシルヴァのキスを受け止めていた。 一度軽く触れた唇は、俺の頬に触れてから再び唇に触れた。 シルヴァのキスは優しくて、自分のファーストキスが男だとかそんなのはどうでも良くなっていた。 ただ、シルヴァが心から俺を心配してくれている気持ちが嬉しかった。 ……が、だ。 好きにさせていた俺も悪いが、シルヴァの手が俺の腰を抱き寄せ口の中に舌を入れようとしやがった。 しかも、腰を抱き寄せたシルヴァの中心部の硬いモノがゴリゴリ当たっている。 ハッと我に帰り 「シルヴァ、ストップ!」 顔を逸らし、慌ててシルヴァの口元を手で押さえた。 「多朗? 僕の気持ちを受け入れてくれたんじゃないの?」 切なそうに言われて 「ご……誤解だ! 心配してくれている気持ちに答えただけだ!」 そう答えると、シルヴァは少し残念そうな顔をして、ゆっくりと俺を抱き締めていた腕を離し 「分かった。無理強いはしたくないから、今日はこれで我慢するよ」 そう答えて、頬に再びキスをした。 「多朗。もしキミに何かあったら、僕は生きては居られない。それを忘れないで……」 と言うと、片膝を着いて俺の手の甲にキスを落とし 「僕の愛しい多朗、旅のご武運を祈っているよ」 そう言って、切なそうな悲しそうな顔をして部屋を出て行った。 俺はシルヴァの唇が触れた手の甲に、そっと唇を重ね 「大丈夫だよ、必ず帰るから……」 と呟いて、胸が軋むように痛む自分に苦笑いをした。 たかだか数日離れるだけなのに……って、そう自分に言い聞かせて。

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