14 / 107

第14話

「お前、時々強引になるよな」 ポツリと呟いた俺に、シルヴァは不思議そうな顔で俺を見ると 「多朗は少し強引にしないと、ツンとデレだから素直に甘えないだろう?」 って笑っている。 (ツンとデレって……。俺、いつお前にデレたよ) 心の中で呟くと 「最初に偵察する街は、宝石の街なんだ」 そう言ってネックレスを外して、ゆっくりと俺の手に乗せると 「これは多朗の瞳と同じ色の宝石で、僕の宝物なんだ。これから行く街で買ったんだけど、エンスタタイトの宝石は珍しいらしくてね。しかも、こんなに透き通ったこげ茶色のエンスタタイトは珍品中の珍品なんだそうだ」 キラキラとサファイアの瞳を輝かせて言うと 「多朗、この宝石の意味はね『明るい未来へ前進するためのエネルギーと勇気を与える』という意味なんだそうだ。僕は多朗の瞳を見ると、未来は明るいんじゃないかって思えるんだよ」 いつになく多弁なシルヴァに 「なぁ、シルヴァ。もし、ババ様が予言した相手が俺じゃなくて和久井だったら、お前は和久井を好きになったのか?」 ずっとモヤモヤしている事を訊くと、シルヴァは目を丸くして 「え?ババ様が予言したのは多朗だよ」 と返して来た。 「……そうだけど、もしもの話だよ!」 「多朗、もしもなんて無いんだよ。だって、ババ様の予言は絶対なんだから」 悪気の無い純粋な笑顔を返された。 多分、シルヴァはババ様が相手は和久井だと予言したら、和久井を好きになったんだろう。 この宝石だって、日本人ならみんな同じ色だ。 こんなに俺を「好きだ」と言ってくれるのも、全てはババ様の予言ありきだ。 俺じゃなくたって良かったんだろうと、ぼんやりと考えてしまう。 シルヴァが優しいのも、好きだと言ってくれるのも、全てはババ様の予言ありきで俺を見てなんかいない。 まぁ……ぶっちゃけ、俺みたいなモブでヘタレな人間を、こいつみたいに全てキラキラした奴が惚れる訳が無いんだ。 俺は黙って宝石をシルヴァの手に返すと 「シルヴァ……俺の居た日本人の瞳はな、みんなその宝石の色をしてるよ」 そう言って窓の外を見た。 「多朗? 何故怒ってるんだ?」 心配そうに俺の顔を覗き込むシルヴァは、漫画や絵本の中の王子様のように美しい。 (まぁ、実際王子様だけどさ……) 最近、シルヴァに「好き」と言われる度に苦しくなる。 シルヴァのサファイアの瞳は、俺を通して夢に見たババ様が予言した勇者しか見ていないんだと思うと辛かった。 「シルヴァ、少し疲れたから寝ても良いか?」 本当は眠くなんか無いのに、これ以上話をしたくなくて嘘を吐いて返事も待たずに窓の外に顔を向けて目を閉じた。 ガラガラと音を立てて走る馬車の音と、時折石を踏んで大きく揺れるけど、ゴトゴトと走る馬車の揺れにウトウトしてしまった。 するとシルヴァが隣に座り、俺の頭をシルヴァの肩にゆっくり乗せた。 「多朗……どうしたら、きみの頑なな心を解せるんだい?」 ポツリと悲しそうに呟いた。 ユラユラと揺れる馬車の揺れと、ガラガラと音を立てる車輪の音に混じって 「多朗は覚えていないだろうけど、僕達は夢の中で何度も何度も出会ってるんだよ。僕は多朗だから惹かれて、多朗だからこんなに愛しているんだ。多朗……、どうしたら僕の気持ちは伝わるんだろうね」 そう呟くシルヴァの言葉が、まるで雨粒が湖の湖面を揺らすようにポツポツと俺の胸の中に落ちて来る。 夢と現の間をさ迷っていた俺は、無意識に1粒の涙を流していた。 「多朗? 起きているの?」 俺の顔を覗き込むシルヴァの気配を感じるけど、瞼が重くて開かない。 「悲しい夢を見てるの? 多朗……」 シルヴァの長くて綺麗な指が、俺の涙に触れた。 「多朗……多朗……、僕の愛しい人」 そう囁かれて、涙の跡に唇が触れた。 そして強く抱き締められて 「愛してるよ、多朗……」 囁きと共に唇が重なる。 その時、シルヴァの身体が小さく震えていたような気がした。 この時の俺は、シルヴァが抱えている運命を知らずに(勝手にキスしやがって!)と思っていた。

ともだちにシェアしよう!