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第19話

なんとなく……このままにしておいちゃいけない気がして、俺を掴まえた奴の腕に噛み付き、緩んだ隙に腹に蹴りを入れて逃げ出した。 俺を捕まえていた奴が怒りだし 「このクソガキ!」 そう叫んだ瞬間、騎士団の人達が 「シルヴァ王子! ご無事ですか!」 と叫んで入って来た。 多勢に無勢になったのに気付くと、俺を捕まえた男が舌打ちして 「撤退だ!」 そう叫ぶと、蜘蛛の子を散らすかのように襲撃して来た奴等が逃げ出した。 その時、俺を捕まえた奴が 「シルヴァ王子のあの柔和な顔に騙されんな!あいつは破壊神の化身だ」 と呟いて立ち去った。 俺がシルヴァに走り寄ると、切られた左腕からかなり出血している。 「ごめん、シルヴァ。俺がリラの言う事を聞かないでサシャに付いて行って捕まったりしたから」 涙を流して呟くと、シルヴァはゆっくりと剣をしまうと、右手で俺の身体をそっと抱き締めた。 「多朗が無事で良かった……」 シルヴァの震える声に、自分の浅はかな行動を反省した。 すると騎士団の兵士達が 「シルヴァ王子、直ぐにおババ様に治癒魔法をして頂かないと……」 と、出血するシルヴァの傷口の上を止血する為に布で縛り上げた。 痛みに綺麗な顔を少し歪めるシルヴァに、俺のせいで怪我させた罪悪感が胸の中に広がる。 そしてふと (ちょっと待てよ。俺、勇者だよな? もしかしたら……治癒魔法を使えるんじゃねぇ?) って、考えた。 ほら、漫画や小説なら、ここで勇者が自分の力に目覚めたりするじゃないか! なんて考えて、シルヴァの傷口に手を翳し (傷口よ、治ってくれ!) とひたすら祈った。 「多朗?」 俺の行動にシルヴァが疑問の視線を向けたその時、指輪がポゥ……と光り、俺の手から黄色い光が放たれた。 すると、見る見るうちにシルヴァの傷口が塞がって綺麗になって行った。 俺がホッとしたのもつかの間、シルヴァが俺を抱き締めて 「多朗! 凄いじゃないか! いつの間に治癒魔法を?」 なんて言って喜んでいる。 騎士団の人達も、サシャ達もあまりにも驚いているから 「シルヴァが指輪に力を与えてくれたからだよ。俺の力じゃない」 そう言って笑うと、騎士団の1人が 「おぉ!従者殿、ついにシルヴァ王子と婚姻を結ばれたのですか!」 と叫んだ。 「は?」 「しーっ!」 呆然とする俺に、シルヴァが慌てて唇に人差し指を当てて止めようとしている。 慌てて口元を抑えた騎士団の1人に、目を据わらせて 「何? どういう事?」 と聞くと、そいつは口元を両手で抑えて首を横に振る。 俺がシルヴァを睨み上げると、サシャが大爆笑して 「もう、白状したらどうだ? シルヴァ。多朗、 ただの指輪の交換なら当たり前にあるが、シルヴァは指輪に命を吹き込み、お前の指輪はそれに呼応した。覚えているな?」 そう言われて俺は頷いた。 「あれはな、お互いに想い合ってないと起きない現象で、しかもシルヴァ王子の魔力をお前の中に受け入れた証なんだよ。だから、もうお前らは身体は繋いでいようが繋いで無かろうが、魂が結び合った証拠なんだよ」 そう言われて俺は赤面した。 そしてシルヴァを睨み上げると 「僕は指輪に命を吹き込むだけのつもりだったんだよ。そうすれば、多朗が何処に連れ去られても分かるようになるから。でもまさか、呼応するなんて思わなかったから……」 とシルヴァが慌てて続けた。 「まぁ、口じゃどんなに『嫌い』だと言った所で、あんだけ凄いもん見せられたらなぁ~」 ニヤニヤしてサシャに言われて、俺は穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになる。

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