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第27話 西の街

馬車で進む事、半日。 宝石の街の賑やかさが段々と無くなり、殺風景な景色に変わっていた。 空き家が多く、人の姿が見えない。 寂れた街並みを見て、シルヴァが深い溜め息を吐いた。 「ここは元々、緑が美しい街だったんだ」 そうに呟くと、シルヴァのサファイアの瞳が悲しそうに揺れている。 馬車を止め、枯れ果てた土に触れる。 「雨が降らないだけじゃなく、実は川を堰き止められてしまってね」 と言うと、高い塀の向こう側を指差した。 「貴族達が、莫大な税を払う人間にしか水を分け与えなくなってしまったんだ。いくら注意をしても、聞く耳を持たなくて困っているんだよ。そのせいで、この街から貧しい者たちは弾き出されてしまったんだ」 そう話すシルヴァの顔は、悲しそうだった。 「俺達の世界でも、水の無い国に井戸を作りに行って、水の利権問題で殺された人が居たよ。水はみんなが平等に口にするものなのにな……」 シルヴァと並んで、俺も高い塀を見上げた。 「もう少し行った所に、まだ水が残っている場所がある。今日はそこに泊まろう」 シルヴァがそう言った時だった。 塀にあったドアが開き、中から豪華な衣装を見に纏った太った男がお供を連れて現れ 「これはこれはシルヴァ王子、ごきげんよう」 そう言って、恭しく頭を下げた。 シルヴァは俺が見た事の無い冷たい視線でそいつを見下ろすと、相手が頭を上げた瞬間に作り笑顔を浮かべ 「これはルーファス公爵、ごきげんよう」 と言うと 「私達は先を急ぎますので」 そう言ってそいつに背を向けると 「ご宿泊先は、お決まりですか?よろしければ、我が城でおもてなしさせて下さい」 と声を掛けられ、シルヴァはにっこりと微笑んだまま 「とんでもない!ルーファス公爵の城を、宿代わりになど使えませんよ」 そう返事をして、俺の肩を抱いて足早にその場を立ち去ろうとした。 「シルヴァ王子。あなたも私も、同じ穴のムジナだと言う事を忘れないで下さいね」 揶揄するような含みを込めた言い方をされて、シルヴァが拳を作って身体を震わせている。 顔を見上げると、怒りと屈辱に悲しみが混じった顔をしていた。 馬車に乗り込んでも、珍しくシルヴァが黙り込んで窓の外を見つめている。 思い詰めた顔をしたシルヴァの隣に座り、俺は両手を広げて 「来いよ、シルヴァ」 と声を掛けると、シルヴァが戸惑った顔をして俺を見つめている。 俺は強引にシルヴァの腕を引き寄せると、そっと頭を撫でた。 「誰が何と言っても、お前が民を思って心を痛めてるのを俺は知ってる。それじゃダメか?」 そう言うと、シルヴァはくしゃりと泣きそうな笑顔を浮かべて 「充分過ぎます、多朗……」 と言いながら俺を抱き締めた。 「お前がアイツとどういう確執があるのかは知らんが、少なくとも同じ穴のムジナではねえよ」 「多朗……」 「人には役割分担ってあると思うんだ。王子に生まれて、平民の暮らしなんか出来る訳がねぇ。だが逆に、平民がお前と同じように政が出来る訳がねぇ。お前が王子という地位にふんぞり返っているだけの奴なら、城を出発した時にあんなに見送りに人が来ないだろう?」 俺の言葉に、シルヴァが小さく微笑んだ。 「多朗、きみが居てくれて本当に良かった」 無理して笑うシルヴァに、そっとキスをして 「世界中がお前の敵になっても、俺だけは味方だ」 と、真っ直ぐシルヴァを見て呟いた。 「多朗……」 シルヴァに強く抱き締められると、俺達はどちらとも無く唇を重ねた。 「お前が倒れそうな時は、いつだって支えてやる」 シルヴァの頬を両手で包んで囁く。 シルヴァは返事の代わりに、俺の手に自分の手を重ねて再び唇を重ねた。 俺はこの時、この世界に召喚された意味を何となく理解し始めていた。

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