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第50話

俺が必死に記憶を思い出そうとしていると、シルヴァが俺を抱き締めて 「今、慌てて思い出す必要は無いよ。きっと、そのうち思い出すから」 そう言って俺の頬にキスをした。 でも、胸の中に広がる不安は拭えず、ベッドから降りてガウンを身に纏うシルヴァを慌てて追いかけようとして……腰が立たない。 ベッドから落ちそうになった所を、シルヴァが慌てて俺の身体を受け止めた。 「多朗、ダメだよ。疲労や痛みが残っていなくても、急に身体の中に強力なエネルギーが入っているから、多朗の身体がついていっていないんだから」 そう言うと 「今、下から飲み物と食事を貰ってくるから待ってて」 やたらご機嫌なシルヴァを横目に、俺はベッドで記憶を辿る。 (何か……とても大切な話をしていた筈なのに……) そう考えながらも、爺ちゃんが昔言っていたすり鉢式井戸の作り方をふと思い出した。 俺達の世界のように、削掘機がある訳では無い。 だから人の手で作りやすい、すり鉢式井戸を食事を持って来たシルヴァに説明した。 やり方は、直径十数メートルの大きなすり鉢状の穴を掘り、その中心に掘井戸が造られる。その縁には水を汲みに行くための井戸道(いどみち)を作るので危険も少ない。 雨が降ったお祭りが終わった数日後、俺とシルヴァで水源のある場所を探して歩いた。 中和して以来、水源のある場所に着くと俺の指輪が青く光るのが分かって、俺達は毎日泥だけになって井戸を作り続けた。シルヴァも王子なのも忘れ、村人達と一緒に村の人達にしか分からない場所に井戸を作り続けて3箇所作り上げる事に成功した。 気が付けば、月日は結構過ぎていた。 そろそろ城に戻ろうとした日の事だった。 この村を出るには、やはりあのお城の側を通らなければならず……。 馬車を走らせていると、ルーファス公爵がやっぱり現れたのだ。 シルヴァは俺に、決して馬車から出ないようにと忠告すると、外に出てなにやら会話をしているようだった。 でも、以前のように長話にはならず、早く解放されていたので俺は深く考えなった。 まさかこの後、大変な事になるなんて夢にも思わずにいたんだ。

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