28 / 45
第28話
本が落ちた音にメイソンと視線を本に送り、ハタと我に返った。
アルトは現状に気付き、慌てて肘で止まっていたシャツを着直し前を閉じると、ゆっくりとアルトに視線を戻したメイソンが苦笑いを浮かべた。
「なんだ……もう、正気に戻っちまったのかよ」
ぽつりと呟き、ゆっくりとアルトの身体を起こした。
そして床に落ちた本を拾うと
「アルト様、あなたはこの本を読んでいらっしゃらないんですよね?」
そう聞いてきたので、アルトがコクコクと激しく頷くと
「読んでおいた方が良いですよ。これはどうやら、予言書的な物になっているようです」
と言って本をアルトに手渡した。
「月の巫女は予言を。太陽の神子は、人の思念を読み取るって訳か……」
メイソンはポツリと呟くと、何やら考え込んでしまった。
アルトはそんなメイソンを横目に見ながら、本をパラリと捲った。
見開き初っ端から
『アァっ!メイソン…………もっと、もっと奥を突いてぇ…………』
と、アルトの部屋の寝室で激しくバックで突かれているシーンから始まり、思わず卒倒しそうになる。
ページを捲ると、見開きページに至った経緯が始まる。
人の思念が読めてしまうアルトが、不意にメイソンが触れられたくない話題に触れてしまい、長椅子に押し倒されてしまう。
しかし、メイソンの足がテーブルの茶器に当たり、紅茶が零れてしまうと、それで我に返ったアルトとメイソンは、一度は正気に戻すものの、メイソンの過去の話にアルトが同情して身体を重ねてしまう。……というストーリーだった。
過去の話や細かい描写が秀逸で、敵ながら思わずウルウルしてしまう。
そして読み終わり、本を閉じて思わずギョッとした。
腐女子 のペンネームが、ゲームのツキナナのキャラデザした人物の名前だったのだ。
(だから、似顔絵が得意なんだ……。そりゃあ、自分がキャラデザした人物画なら、簡単に描けるわな……)
そう関心していると、メイソンが本をアルトから奪い
「この本は焼却致しましょう」
と呟いた。
「傍にあると、この本の効力が私達に影響してしまうようです」
そう言われて、アルトは思わずメイソンの腕を掴み
「メイソン……。もしかして、この本の中のきみの過去の話は、真実なの?」
と聞いてしまった。
それがどんな結末になるのかも、全く考えもせずに……。
そんなアルトに、メイソンは眉をピクリと動かし
「アルト様、私の話を聞いていましたか?この本は、私達の傍にあったら効力を発揮してしまうのです。ですから……」
そう言いかけたメイソンのネクタイを掴み、アルトは引き寄せて唇を奪う。
「メイソン!今、本の効力の話はどうでも良い!この内容に相違があるのか?ないのか?それを聞いているんだ」
真剣な眼差しで聞かれ、メイソンはアルトから視線を逸らした。
それが『肯定』だと察する事が出来ない程、アルトは鈍感では無かった。
「そっか……」
そう呟いて、アルトは小さく溜息を吐く。
「メイソン。僕はキミを心から信頼しているし、これからもずっとキミには僕の傍に居て欲しいと思っているんだ。だから、僕に隠し事をしないで欲しい」
そう言ってメイソンの首に手を回し、抱き寄せる。
「ア……アルト様!」
驚くメイソンに
「ねぇ、メイソン。僕はキミを決して裏切らない。信じられないなら、いつでも僕を試してくれても構わない。だから、キミの真実をキミの口から聞かせてくれないか?」
と伝えた。
メイソンは暫く黙り込むと、ゆっくりと頷いて抱き寄せているアルトから身体を起こし、隣に腰掛けた。
ともだちにシェアしよう!