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第32話
やはり慣れない行為に震えるアルトに、メイソンがそっとアルトの頬に触れて
「アルト様、無理でしたら……」
と中断発言を口にしようとしているのに気付き、アルトはそっとメイソンの整った唇に右手で触れた。
「それ以上は言うな。これは僕が決めた事なんだ。だから、メイソンは気にしないで先を進めてくれ」
と呟いた。
『先を進めてくれ』と言われ、『はい!じゃあそうしますね!』って軽く出来る行為ではないとメイソンは言いたかったが、アルトの気持ちを考えて口を噤む。
その代わり、メイソンは唇に触れているアルトの手を取りキスを落とした。
たった数日しか一緒に暮らしていない、しかも執事という立場の自分に対して、アルトは何故こんなにもしてくれるのだろうか?と、メイソンは考えた。
太陽の神子だから?
だとしたら、あまりにも懐が深すぎないか?と。
何か裏があるのでは無いか?と考えてしまうが、恐怖に震える身体で必死に耐える姿に偽りを感じない。
これが何人にも抱かれているような人なら、メイソンも気兼ね無く一夜のアバンチュールと軽く考えられる。
しかし、今、自分の下で震える美しい少年は、まだ身体も未成熟でありながら必死にメイソンの身体を受け入れようとしている。自分の為に身を投げ出してくれる存在に、今までメイソンは出会った事が無かった。
可憐で美しいだけの少年なら、メイソンは心を閉ざしていくらでも業務的に接する事が出来ただろう。
胸に去来する熱い思いに、思わず苦笑いを浮かべた。
そっとアルトの頬に触れると、自分を見上げる美しいエメラルドの瞳を見つめ返す。
そんなメイソンに頬に染めるアルトを、愛おしいと感じた。
(まさか、俺が誰かをこんなに愛おしく思う日が来るとはな……)
メイソンは心の中で呟くと、そっとアルトの頬にキスを落とした。
恥ずかしそうにはにかむアルトを強く抱き締め
「アルト様、あなたを好きになっても良いですか?」
そう呟くと、アルトが驚いた顔をしてメイソンを見つめた。
「あの……契約の事で気を使っているなら、大丈夫だよ」
エメラルドの瞳が、戸惑いの色を浮かべてメイソンに答える。
メイソンは首を横に振ると
「今まで、たくさんの人と肌を重ねて来ました。ですが、アルト様には今まで感じた事の無い感情が芽生えてしまったようで……正直、戸惑っています」
そう言ってアルトの瞳にキスを落とした。
そしてアルトの手を自分の左胸に当てると
「分かりますか?俺がどれ程、貴方にドキドキしているか……」
と言われ、アルトは手のひらから感じるメイソンの鼓動に胸がギュッと苦しくなった。アルトは自分の早鐘を打つ心臓の音と、メイソンの心臓の音が重なるような感覚になった。
(1つになるって、きっと気持ちも1つになる事なのかも知れない)
そんな事を考えながら、アルトはメイソンと唇を重ねた。
あんなに怖かった筈の身体の震えが止まり、そっとメイソンの背中に手を回す。
人肌の温もりがこんなに心地よいと思えるのは、相手がメイソンだからかもしれないと、アルトもようやく自分の気持ちになんとなく気付いた。
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