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プロローグ

 バクン、バクン、バクン………!!  心臓が止まってしまう恐怖を感じる程の拍動を感じ、思わず俺は胸を鷲掴みにして身を丸くした。  胸が痛い。  酸素、酸素が吸えない。  目の前に無数の火花が散り、何が確実に迫ってきているのを感じる。  誰か、誰か……助けて……!!  体中の血液が燃えたぎり、それに耐えようと無意識に髪を掻きむしる。  今までのヒートとは比べものにならない程の強烈な苦痛に欲情。これが本物のヒートなんだと思い知らされる。 なんていう、とんでもない化け物なんだ……。  体中から溢れだした甘ったるいフェロモンの匂いが部屋中に充満し、自分でも噎せ返りそうになる。  ぐぉぉぉ……ハァハァ…グッ……!!  必死にヒートと格闘していた俺を、温かいものが包み込んだ。 「え……?」  突然の行動にひどく戸惑ってしまい、その人物を見上げれば、そこには既に獣と化した親友がいた。 「お前……お前まさかα……?」  親友を相手に、今までに感じたことのない強い恐怖を感じて、全身がガタガタと震え出す。  歯を食い縛り俯いた後、涙を流しながらそいつは呟いた。 「(わたる)……お前Ωだったんだな?」  その瞳からポロポロと涙が零れた。 「航、ごめん、ごめんなさい。もう……我慢できねぇ……」  そのまま床に勢いよく押し倒された衝撃で、背中を強く打ち付け苦痛で顔を歪めた。  狼に睨みをきかせられた兎は大人しく喰われるしかない。それが兎の……Ωの運命だから……。  でも、そんな運命なんて、俺はいらない。  俺には、例え番ってはいなくても、一生を誓い合ったαがいるのだから。  恋人の名前を大声で呼ぼうとした瞬間、唇を奪われる。  いくら首を振って抵抗しても、そいつの体を突き離そうとしても、物凄い馬鹿力でビクともしない。 「駄目だよ!!なぁ、しっかりしろよ!!」  けど、目の前にいる親友は、もういつものそいつじゃない。  血に飢えた狼そのものだ。  自分でもわかる、今の自分は理性のあるαさえも狂わせる程ヒートしていることを。  隠しきれない程のフェロモンを振り撒いて、更にαに刺激されて、発情期の兎のように欲情しきっていた。  目の前の男に、抱かれたいと思ってしまっている。  こうやって、Ωのヒートに絡んだ犯罪が起こるんだって頭の片隅で納得してしまった。  この本能に抗う術は、きっとない。  そんな生易しいものじゃない。  洋服を引き裂かれるんじゃないかってくらい乱暴に脱がされ、いきなり秘部に指を挿入される。  ヒートしているΩは、すぐに挿入できるように秘部から多量の愛液が分泌されている。だから前戯なんて全部すっ飛ばしても何ら問題はない。 「航……航……!」  狂ったように名前を呼ばれ、口付けられればあっという間に唇が唾液まみれになる。 もう受け入れるしかない……そんな諦めが頭を過った。  全身を抑えつけられ、その瞬間が近付いてくる。  足を高く担ぎ上げられて、親友の目の前に秘部を晒される。 「嫌だぁ!」  その強過ぎる羞恥心から、俺は悲鳴に近い声をあげた。 「嫌だ!!止めて!!嫌だ!!」  目からは興奮のためか涙が溢れだし、力の限りそいつの体を自分から引き剥がそうとする。  でも、非力な兎が狼に敵うはずがない。  普段とは比べ物にならない程、今の親友は力強かった。  俺は、無我夢中で恋人の名前を心の中で叫んだ。  助けて欲しいけど、この醜態を恋人に晒したくない。  俺の中で激しい葛藤が起きる。  噛み締めた唇から血が滲んで、それを親友が厭らしく舐め取った。 「挿れるよ……」 「嫌だ……嫌だ……」  その言葉と共に、熱い楔が体内を押し開いて行く嫌悪感に、目を見開きながら全身に力を込める。  ついに、その瞬間が訪れたのだ。 「嫌だぁぁぁ!!」  哀れな(Ω)は、哀しい親友(α)に犯されてしまった。  ガブリッ。  次の瞬間、俺は首筋に肌を切り裂かれたような、強い強い痛みを感じたのだった。

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