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**第1章** 狼が兎に恋する時① 【兎視点】

人間は生まれてきた瞬間に、男と女という2種類に弁別されたあと、更にΩ、α、βという3種類に分別される。 自分がどれになりたいなんて選べるはずもなく、神様の思いつきで勝手に決められてしまう。 理不尽極まりないけど、それすら運命だと受け入れざるを得ない。 Ωはαに支配され、主と奴隷の関係へと堕落する。 そして、αがΩの首に噛みついた瞬間、運命の歯車によって全てを狂わされていく。 その関係はまるで狼の群れのようだ。  強い者が群れを支配し、弱い者は支配者に尾を振るか、群れを去る以外に生き延びる術はない。 αが狼なら、Ωはただのちっぽけな兎だ。弄ばれて最後は捨てられてしまう。 でも俺は身をもって体験することとなる。 狼だって、兎に恋をすることだってあるということを。兎だって、狼に守られ、生きていくこともできるんだ……ということを。  俺は、吉沢航(よしざわわたる)。男子高校3年生。もう1つのバースはΩ。  生きる価値なんてないんじゃないかって、ずっと強いコンプレックスを持って生きてきた。  でも、心の奥底では、一生愛し合える(つがい)に出会えるんじゃないか……って仄かな期待も抱いていたりもする。  こんな顔で何言ってるの?って自分でも可笑しくなるけどさ。  Ωだって、本当は誰もが幸せになりたいって思ってるんだ。  このお話は、そんなちっぽけな(Ω)と、それはそれは立派な(α)が、必死に運命に抗いながらも愛し合う物語だ。  みんなさは、運命って信じる?  俺はさ……信じてるよ。

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