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儚き兎の夢①【兎視点】

 ある日兎は夢を見た。  兎が見る夢なんて、本当にちっぽけでつまらないものかもしれないけど。  兎からしたらそれは大切な大切な、でもとても儚い夢だった。  兎は祈った。  どうか、あの優しい狼とずっとずっと一緒にいられますように……と。 ◇◆◇◆◇◆  寛太(かんた)と恋人同士になって、もうすぐ1年になる。  初めてのヒート以来、あまりの恐怖から定期的にヒートを抑制する働きをもつ薬を飲むようになった。  女の人が飲むピルみたいなもので、ヒート自体は抑えてくれるものの副作用も半端なかった。  常に体がダルくて、眠たい。    それでも、ヒートが度々起きていては普段の生活もままならないから、俺は薬を飲み続けている。  あの、自分の意志ではコントロールできない欲情が、自分自身怖くて仕方なかった。 「(わたる)、東京に戻ってこいよ。そしたら、お前は俺が守るから」  心配した寛太からの提案で、俺は関西を離れ、慣れ親しんだ東京へと戻ってきていた。  関西にある大学から、関東にあるの分校に転入し、寛太が1人暮らししているアパートに身を寄せている。  そこで寛太のサポートを受けながら、何とか体を誤魔化しながらも、大学生活を送っていた。  本当は大学卒業まで関西にいようと思っていたのに、寛太の猛プッシュに負けて東京へと戻ってきた俺は、何となく丸め込まれてしまった感は正直あるけど……今ではすっかり、恋人が板についた寛太に溺愛されている。  それが、俺は凄く幸せだった。  何よりも……。 「航、大丈夫?体ダルくないか?」  いつも俺を気遣ってくれる、優しい寛太の存在が、本当に心の支えとなってくれていた。  Ωがヒートの時に自然に発してしまうフェロモンは、所構わず更にはαだけに留まらず、時にはβさえも刺激し性的な衝動を誘発してしまう。  それに伴う、Ωの悲惨なレイプ事件は後を絶たない。正気を失ったαに無理矢理首を噛まれ、番になってしまうケースもある。  確かに苦しいヒートを回避したいという思いもあるけど、何より寛太以外の人間に体を触られるのが嫌だった。  レイプなんて想像もしたくない。 「大丈夫だよ、ありがとう」  甘ったるい声を出せば、たまに遊びに来る真大(まひろ)玲央(れお)がニヤニヤと目を細める。 「相変わらずラブラブですね」  って。  からかわれて恥ずかしいけど、それ以上に、みんなからこの関係を祝福されてるみたいで嬉しかった。  くすぐったくて、めちゃくちゃ幸せで、みんながいるにも関わらず俺は寛太に抱きついた。 「珍しく甘えん坊だな」  寛太が幸せそうに笑ったから、こんな穏やかな時間がずっとずっと続くといいな……って思う。  ただ、幸せ惚けしていた俺と寛太は、その後、強く後悔することとなる。  その時、莉久だけが、とても寂しそうに、でも精一杯作り笑いしていたことに……俺達は、気付いてあげることができなかった。

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