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儚き兎の夢④【兎視点】

ガタン!! 「痛ッ!」  久莉(りく)に、そのまま床に勢いよく押し倒された衝撃で、背中を強く打ち付ける。俺はその苦痛に顔を歪めた。  狼に襲われた兎は、大人しく喰われるしかない。  それが兎の……Ωの運命だから……。  けど、そんな運命なら俺はいらない。 『お前ら本当にラブラブだな。ウゼェよ』  俺達を茶化しながら、でも祝福してくれてるように優しく笑う莉久が好きだった。  本当に大切な親友だと思ってる。  そんな莉久に、いくら発情(ヒート)しているからと言って抱かれるわけにはいかない。  自分の為にも、寛太(かんた)の為にも……そして、莉久の為にも。  寛太の名前を大声で呼ぼうとした瞬間、唇を奪われる。  いくら首を振って抵抗しても、莉久(りく)の体を突き離そうとしても、物凄い馬鹿力でビクともしない。 「莉久!!莉久!!駄目だ!!しっかりしてくれ!!」  けど、目の前にいる莉久は、もういつもの莉久じゃない。血に飢えた狼そのものだ。  俺の言葉なんて、全く届いていない。  自分でもわかる、今の自分は理性のあるαさえも狂わせる程、発情(ヒート)していることを。  もう隠すことなんてできない程のフェロモンに……ラットしたαにより刺激され、認めたくないけど欲情してしまっていた。  莉久に、抱かれたいと思うΩが疼いて仕方ない。  こうやって、Ωのヒートに絡んだ犯罪が起こるんだって頭の片隅で納得してしまった。  この本能に抗う術はない。  そんな生易しいものじゃない。  洋服を引き裂かれるんじゃないかってくらい乱暴に脱がされ、いきなり秘部に指を挿入される。  ヒートしているΩは、すぐに挿入できるように秘部から多量の愛液が分泌されている。だから前戯なんて全部すっ飛ばしても何ら問題はない。 「(わたる)……航……!!」 「あん……むぅッ……はぁ……あッ」  狂ったように名前を呼ばれ口付けられれば、あっという間に唇が莉久の唾液まみれになる。  もう受け入れるしかない、諦めさえ頭を過った。  体を抑えつけられ、その瞬間が近付いてくる。  足を高く担ぎ上げられて、莉久の目の前に秘部を晒された。  でももうそこは、莉久を欲しがりトロトロと愛液が溢れ出し、ヒクヒクと小刻みに痙攣をしている。 「莉久!!止めてくれ!!莉久!!莉久!!」  目からは興奮のためか涙が溢れだし、力の限り莉久の体を自分から引き剥がそうとする。  でも、非力な兎が狼に敵うはずがない。  普段とは比べ物にならない程、今の莉久は力強い。  寛太……寛太……。  助けて欲しいけど、この醜態をあいつに晒したくない。  俺の中で激しい葛藤が起きる。  噛み締めた唇から血が滲む。それを莉久が厭らしく舐め上げた。 「航、可愛い……俺の物になって?俺の子を……身籠って?」 「…………!?」  次の瞬間…熱い何かが体内に侵入してくる感覚に、強い嫌悪感を抱き目を見開いた。  ついにその瞬間が訪れる。  哀れな(Ω)は、哀しい莉久(α)に犯されてしまった……。

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