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狼と兎が流れ星に祈る時⑤【狼視点】

(わたる)……愛してる。そんで、これからも、ずっとずっと愛してるよ」  俺は体を起こして、航と向かい合った。 「今までこんなに苦しいのを我慢してくれて、本当にありがとう。もう苦しまないで……」  俺の為に、本当に本当にありがとう。 「これからは俺がお前の番になって、一生傍にいるから……」  月光に淡く浮かび上がる航……綺麗だよ。  そのまま力一杯抱き締めた。  たくさんの覚悟を決めて。  これからはずっと一緒にいて、一生かけて航を守りたいんだ。 「航、噛むぞ。ちょっと痛いけど我慢な?」  あまりの苦痛からか、虚ろな目をして肩で息をしている航の髪をそっと撫でた。  どうか世界中のΩに、幸せが訪れますように……。  そして、莉久が噛みついて、ようやく治りつつある傷口に噛みついた。  αとしての本能ではなく、1人の男して精一杯の愛情を込めて噛みついたのに、歯で皮膚を切り裂くリアルな感触に目を見開いた。  同時に口内に広がる血液。 「っっあぅ……くぅ……!!」  航が痛みから全身に力を込めた。  流れ出る血液を優しく舐める。 「痛かったな、ごめんなぁ」  何もしてやれずに、ただただ航を抱き締める。  俺達は、あまりにも必死で気づかなかった。  莉久(りく)が最後に噛んだ航の手の傷が、消え去っていたことを。  なぁ、航は運命を信じてる?  俺は信じたいって思ってるよ。信じなきゃ生きてけない時だってあるから。  空にはたくさんの星が瞬いていて、人は流れ星に願いを託す。  でもそれは、流れ星が願いを叶えてくれるんじゃない。流れ星が流れるほんの一瞬でさえ叶えたいって思うくらい強く願い続けるから、叶うんだよ。  だから俺も祈るよ。  ずっとお前と一緒にいたいんだ。  俺はお前の、たった一人の番になりたい。  次の瞬間、部屋中に広がる甘ったるい匂いに顔を上げる。  航の体から溢れ出るΩのフェロモン。  俺の本能が覚醒していくのを感じる。 「航……」  そっと声をかければ疲れきった顔で、でも柔らかく笑った。 「寛太(かんた)……」  久しぶりに見た航の笑顔に涙が溢れた。 「大丈夫か?」  そっと髪を撫でれば照れ臭そうに笑った。 「ようやく俺ら、番になれたね」  天使みたいに微笑んで、俺に手の甲を見せてくれた。  その手の甲の傷は綺麗に消え去り、首筋には俺が噛んだ跡が綺麗に浮かび上がってる。  あまりの嬉しさに頭がフリーズしてしまった  正直、何が起きたのかを理解できなかった。  でも、たった一つ理解できたことがある。  俺には、たった今、世界で一番可愛らしい番ができた……ってこと。

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