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狼の涙が枯れた時⑤【狼視点】

 馬鹿みたいにまた涙が溢れて、それが(わたる)の頬に落ちる。  それはまるで、航自身が泣いてるように見えた。 「ごめんな……こんな結末しかなくて……」  航の首に回された両手がガタガタ震えて力がうまく入らない。  首筋に残された噛み跡が、憎くて憎くて仕方ない。  なんで、なんでこんなことに……。 『寛太(かんた)……愛してるよ』  あっ、航が笑ってる。  そうだ、俺は忘れてなんかないよ。  初めて想いが通じた瞬間のこと。  初めてキスをした時のこと。  初めて体を重ねた時のこと。  初めて一生一緒にいたいって思った時のこと。 『寛太……』 『愛してるよ。俺は寛太だけを愛してる』 『この想いだけは何があっても変わらない』  俺の名前を呼ぶ愛しい声に、愛しい存在。 「俺に、お前が殺せるわけねぇじゃん……アホが」  鼻で笑って、航の首から手を離す。 「ごめんな、馬鹿なことして」    髪を優しく撫でてから、そっとキスをした。  なんで、こんなことになっちまったんだろう……またスタートに戻ってしまう。  こんな疑問の答えなんか、見つかるわけないのに。  強く強く航を抱き締めた。  だって、今の俺はお前を抱き締めることしかできない。  だから抱き締めるよ。  もう離したくなんかないから。 「ずっとずっと一緒に生きて行こう」  俺は、絶望の中に、一筋の希望を見た気がした。

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