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狼と兎が流れ星に祈る時④【狼視点】

「フーフーッ」  獣のような目をした(わたる)に押し倒される。  上手に受け身がとれなくて、床に頭を打ちつけてしまい顔をしかめた。 「寛太(かんた)……お前を抱きたい。抱きたい!だから逃げてくれ……殴ってでもいいから!早く……!」  苦しみに歪んだ航の顔に、心を引き裂かれる。  こんなに苦しいのに、俺の為にその苦しみに耐えようとしている。  死さえ選ぶ者さえいるという地獄の苦しみ……莉久(りく)の言葉を、ふと思い出す。  もう一度、莉久に航を預けようか。  きっと莉久なら、一生寛太を大事にしてくれるはずだ。  こんなに苦しまなくていい……俺なんかの為に。  お前が、可哀想過ぎるよ。  航の体を押し返していた腕の力を抜いて、そっと顔を撫でてやる。  あの可愛らしい顔で微笑む航は、もういないのだろうか? 「航……抱いていいよ……」  航をそっと抱き寄せて、口付けた。  お前のためなら何でもできるよ。そりゃあ抱かれるのは初めてだから怖いけど、でもお前の苦しみに比べたら全然大したことなんかないから。  だけどやっぱり、お前を莉久には渡せない。 「抱いてくれ……航。愛してるよ」  俺を組敷く航の体が小刻みに震え、俺の頬に雫が落ちる。 「泣くな、航……」  そっと抱き寄せた。 「抱いて……」  耳元に口付けて甘く誘惑した。 「なぁ、寛太……俺の首に噛みついてくれないか?」  航が消え入りそうに、でもしっかり意思を持って囁いた。  目に涙をいっぱい溜めて懇願する姿を見れば、愛しくて胸が熱くなる。 「今更寛太に首を噛まれたって、全く意味がないのはわかってる。でも、それでも俺は、お前の番になりたいんだ……」  あまりにも愛しくて、意地らしい姿に息を飲んだ。 「寛太と幸せになりたい。ずっと一緒にいたいよ」  迷いは完全に吹っ切れた。  心に残るのは、航への愛情。ただ、それだけだった。

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