33 / 93
狼と兎が流れ星に祈る時④【狼視点】
「フーフーッ」
獣のような目をした航 に押し倒される。
上手に受け身がとれなくて、床に頭を打ちつけてしまい顔をしかめた。
「寛太 ……お前を抱きたい。抱きたい!だから逃げてくれ……殴ってでもいいから!早く……!」
苦しみに歪んだ航の顔に、心を引き裂かれる。
こんなに苦しいのに、俺の為にその苦しみに耐えようとしている。
死さえ選ぶ者さえいるという地獄の苦しみ……莉久 の言葉を、ふと思い出す。
もう一度、莉久に航を預けようか。
きっと莉久なら、一生寛太を大事にしてくれるはずだ。
こんなに苦しまなくていい……俺なんかの為に。
お前が、可哀想過ぎるよ。
航の体を押し返していた腕の力を抜いて、そっと顔を撫でてやる。
あの可愛らしい顔で微笑む航は、もういないのだろうか?
「航……抱いていいよ……」
航をそっと抱き寄せて、口付けた。
お前のためなら何でもできるよ。そりゃあ抱かれるのは初めてだから怖いけど、でもお前の苦しみに比べたら全然大したことなんかないから。
だけどやっぱり、お前を莉久には渡せない。
「抱いてくれ……航。愛してるよ」
俺を組敷く航の体が小刻みに震え、俺の頬に雫が落ちる。
「泣くな、航……」
そっと抱き寄せた。
「抱いて……」
耳元に口付けて甘く誘惑した。
「なぁ、寛太……俺の首に噛みついてくれないか?」
航が消え入りそうに、でもしっかり意思を持って囁いた。
目に涙をいっぱい溜めて懇願する姿を見れば、愛しくて胸が熱くなる。
「今更寛太に首を噛まれたって、全く意味がないのはわかってる。でも、それでも俺は、お前の番になりたいんだ……」
あまりにも愛しくて、意地らしい姿に息を飲んだ。
「寛太と幸せになりたい。ずっと一緒にいたいよ」
迷いは完全に吹っ切れた。
心に残るのは、航への愛情。ただ、それだけだった。
ともだちにシェアしよう!