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**第2章** 狼と兎の優しい気持ち①【全て兎視点】

あっという間に、寛太(かんた)が俺の番になったということが友達の間に広まって、「良かったね、寛太に幸せにしてもらうんだよ」って涙ぐんでくれる奴もいれば、 「キャーー!!ラブラブじゃん!?」って冷やかしてくる奴もいて……。  どちらにしても、きっと俺達を祝福してくれてるんだって思うと嬉しくもあり、くすぐったくもあった。  時々、首の傷が消えてしまったのではないかって不安になって、慌てて確認してしまう。そんな俺を見て、 「消えるわけないじゃん」  って寛太が笑ってた。    だって、消えたら悲し過ぎるから、やっぱり確認しちゃうんだ。  大丈夫だからって抱き締めてもらえば、幸せ過ぎて思い切り抱き締め返した。  俺達は、無事大学を卒業し、寛太は幼い頃からの夢だったゲームクリエーターの道へ、俺は大学院へと進学した。  寛太は在宅勤務が多かったから、苦手な家事も率先してやってくれる。  本当に、素敵な旦那さんみたいだった。    買い出しが終わって、近所のスーパーから徒歩で自宅へ向かう途中、暑くて額から流れる汗を拭った。 「暑すぎだろ~!?」  蝉の大合唱が、更に暑さを倍増している気がする。  長い梅雨がやっと終わって夏本番。水遊びとか、子供みたいな遊びがこの年になっても大好きで、夏になるとワクワクして仕方ない。  なのに、今年の夏はちょっと違う。  とにかく体がダルいし、大食いの俺としたことが食欲もない。 「夏バテかな……」  首を捻りながら、涼を求めて自宅へと急いだ。  自宅へ着くと、あまりの涼しさにホッと息をつく。めちゃくちゃ天国じゃん。 「おかえり、(わたる)」  愛しい恋人に迎え入れられた瞬間、突然感じる吐き気……。  突然トイレへと駆け込んだ俺を呆然と見つめる寛太を横目に、しばらくトイレから出られなかった。 「大丈夫かぁ~?」  ドアの向こうから聞こえる寛太の心配そうな声。 「大丈夫だよ~」  全然大丈夫じゃないけど、とりあえず心配かけたくないから適当に答える。  なんかの食あたりだろう……俺自身も、深くは考えなかった。  最近の寛太は忙しいらしくて、仕事部屋に籠っては黙々と作業をしていた。  それでも、ずっと憧れていた職業に就くことができた寛太は、キラキラ輝いているように見える。  俺は、そんな寛太を支えたくて、勉強の合間を縫っては家事をこなした。  ……なのに……。やっぱり何かがおかしい。  体がフワフワして、目眩がする。  貧血かな……そう思った瞬間目の前が真っ暗になり、その場に崩れ落ちた。  普段から体が丈夫で、体調を崩すことなんかない俺だから、只事じゃないなって思う。 「航、どうした!?」  突然の物音に、寛太が慌てて仕事部屋から飛び出してきたから、 「大丈夫、大丈夫だから!」  って笑おうと頑張るんだけど、込み上げてくる吐き気に、ついには廊下に寝転んでしまう。 「大丈夫か!?航!」  心配そうに俺を抱えて、涼しい所に運んでくれる寛太を見てボンヤリ思う。  ねぇ寛太……俺、この原因不明の体調不良に心あたりがあるんだよ。  食あたりとかじゃなくて。  もっと違う……。  確かめないと……。 「寛太……俺、寝室で寝てるね。でさ、悪いんだけど、仕事が終わったら声かけてもらえないかな?」 「わかったけど……病院に行かなくて大丈夫か?」  心配そうに俺を覗き込む寛太を見て、 「大丈夫だよ」  って笑った。    重たい体を何とか動かして、洗面所にに向かう。 「確か、念の為に買っておいたはずだ……」  今にも倒れそうな体で、俺は棚の中を漁った。

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