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狼の静かなる葛藤②【狼視点】

 月日は流れて、(わたる)も少しずつ起きてられる時間が増えてきた。  吐いちゃって全く起きられない日もあったりもするけど。  少しずつ、『妊夫』が板についてきた。  相変わらず主食はチョコレートで、器用に果物を自分で剥いて食べてることもあった。  その後、ゲロゲロしてたけど。  部屋には、豆太郎(まめたろう)を待ちきれない友人や、じいちゃんばあちゃんが買ってくる、ベビー用品で溢れてきていた。  特に洋服……日替わりで着れるんじゃねぇか?ってくらいある。玩具もいっぱい。  すでに親バカで溢れてる雰囲気に、可笑しくなってくる。  それと同時に本当に幸せだな……とも思えた。  本当にありがたい。 調子がいい夕方には、二人で散歩に出掛けることもあった。 もうすぐお互いの誕生日だな、なんて話しながら。 二人で迎える最後の誕生日。来年の誕生日には3人家族になってるはずだ。 航の腹を見れば、まだペッタンコで不思議になる。本当にこいつ妊娠してんのかな……って。 けど、航はたくさん笑えばいい。 それが腹の中の子供に伝わるなら。 俺もたくさん話かけるよ。だからパパの声も覚えてほしい。 ただ、お前が生まれてくる少しの間だけでいいから、航を俺に返してくれよ……。 じゃないと、パパ寂しくて死ぬかもしれん。 ちょっとだけでいいんだよぉ!! 沈む夕日を見ながら、そっと航と手を繋いだ。 メチャクチャ幸せ、なんだけどな。 「そろそろ帰るか?」 「うん、帰ろ」  ニコッと笑う航を見たら、こんなガキみたいなワガママを言ったらいけないって思った。  だから、重い下半身も気付かないフリをした。 だって俺は『パパ』なんだから。 航がみんなに囲まれて楽しそうに笑ってる。 「航、お腹少しだけ出てきたね!」 「元々が細いから分かりやすいよな」  って真広(まひろ)玲央(れお)と盛り上がってる。 「そうかなぁ…」  なんて自分の腹をさする航の顔なんて、本当に『ママ』だ。  このギャップを感じる度に自己嫌悪に陥る。  どんどん親になっていく航に、豆太郎にヤキモチを妬く俺。    正直、非常に焦る。  そんなアホな自分が嫌になる。  みんなが帰ったあと、仕事もそこそこで切り上げて、珍しく航と同じタイミングで布団に入った。  こんなにムシャクシャするなら、寝ちまおうって思ったから。 「おやすみ」  って声をかけた後、さりげなく航に背中を向ける。  うっかり襲ってしまわないように。  手くらい繋ぎたいけど……猪突猛進の俺が同じ布団に一緒に寝て、手だけを繋いだ状態で満足できるはずがない。  そんな『0か100か』の性格だから。  次の瞬間、背中に温かいものがくっついてくる。 「拗ねてる寛太(かんた)は、ど~こだ?」  優しい優しい航の声に、ずっと抑えつけてきて甘えん坊怪獣が暴れだした。 「こ~こだ。ここにいるよぉ!」  クルリと体の向きを変えて、正面から航を抱き締めた。  久しぶりにちゃんと抱き締めた航は、温かくてシャンプーのいい香りがした。 「甘えん坊怪獣、見~つけた」  あんまりにも可愛く笑うもんだから、寂しん坊怪獣が暴走し始める。 頭を撫でながら、触れるだけのキスをする。 チュッチュッて甘い音が静かな部屋に響き渡れば、下半身が疼いて仕方ない。 「エッチ……したらマズイ?」  そっと顔を覗き込めば、 「ずっと我慢しててくれたんでしょ?」  って逆に聞き返されてしまう。  何もかもお見通しで、情けなくなった。 「俺さ、パパになるのにお腹の子にお前をとられちゃった気がして……馬鹿みたいにヤキモチ妬いてた。  航の胸に顔を押し付けた。  恥ずかし過ぎて、まともに顔すら見れない。 「ずっとずっとエッチしたくて、でも、お前体がしんどそうだし……」  本当にガキみたいな父親だ。 「航……ごめんなさい」  小さく小さく呟いた。 ……バカだね……。 クスクスと航が笑う。 「お前との赤ちゃんだから、大切なんじゃん」  その笑顔は、恋人同士だった頃の航のままで懐かしくなった。 「エッチ…しよ?」  恐る恐る問えば、 「お手柔らかにね」  そう可愛らしくはにかんだ。

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